ナイフを握ったまま、顔をうずめ泣き始める。
その行動から すぐ様 人格が分かった。
声をかけると、
涙で濡れた顔をあげる主人格。
同じ顔なのに、
これでもかという程 別人に見える。
そう伝えると
ものすごい勢いで抱きしめ
聞こえるか聞こえないか位のか細い声で、
そう呟いた。
この言葉を信じて良かった 、と
そう心から思えた。
やはり彼には人を殺せない。殺せるはずがない。
ただでさえ ほとんど顔見知りの刑事を必死に助けたのだから。一度顔を見た人間を殺せるだなんてもってのほかだ。
やはり、「 松村北斗 」という人間は、多重人格者であることに間違いない。
少なくとも、
人を殺せない善人の「 僕 」(主人格)と、
人を殺すなんて生活の一部だという悪人の「 俺 」(シリアルキラー)
といった二人がいるというのが明らかになった。
だが、三つ目の人格が妙に引っかかる。
主人格自身も鮮明な原因は分からないと言っていた。
何故、弟の身体に兄の人格が?
何か理由があるのだろうか、
はたまた 些細な出来事で入ってしまったのだろうか。
その答えが導き出せるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
そうやって考えてるうちに、彼はゆっくり身を起こし、と同時に涙も晴れていた。
自分の指を指した方向に目をやると彼は
声を荒らげながらナイフをしまいに行った。
だんだん彼の素が見えてきた感じがして、何ともいえない安心感と心地良さを覚える。
シリアルキラーと過ごしてきたばかりなので、主人格に戻った今が ものすごく平和で落ち着くというのを気付かせてくれる。
だが 残念なのが、いつ人格が変化するのか分からないということ。
彼曰く、“ 右目が青く光る “ とシリアルキラーに変わったというのだが、彼奴はズル賢い奴だ。絶妙なタイミングで現れてくるに違いない。
24時間、何時でも警戒しておかなければ。
……To be continued
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。