気がつけば2分も経っており、時計の針は9時59分を差していた。
私はまだ料金を支払っていなかったので店員さんに聞くと、今日で最後だから、払わなくても良いとのことだ。
「今日は午前までなので大丈夫ですよ」と最後まで返事をくれる店員さんに手を振り、私は店を出て竹下通りの門のような場所へ向かった。
門の右端に皆が集まっている中で私は温真くんを見つけた。
よし、今度こそ。
今度こそ、あいさつしたい。
また小さい声で言ってしまった。
これも小さい頃からの悪い癖。
おまけに誰かの肩にぶつかり、温真くんの背中に向かって倒れてしまった。
きっと、こんなこと考えている暇なんてないかもしれないが、温真くんの背中は暖かくて、少し大きい。
ドミノのように倒れた温真くんと私は、いつの間にか かなりの注目を浴びていた。
温真くんは膝を曲げて、唸っている。
ああ、申し訳ない…
と、その時。
いきなり目を向けられてしまった。
私はパニック状態。
また文句言われる!
と思ったが、
その子は軽く注意するだけで終わって、なんだかホッとした。
これは、田中さんのおかげかもしれない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。