第30話

禁断の歴史と記憶の少女達【2】
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2023/10/26 10:58 更新
────前回のあらすじ
異能特務課の坂口安吾は盗まれた100年戦争の書物を探すために、東奔西走していた。
そのような彼の前に武装探偵社員の太宰治が、現れて意味深な言葉を残す。
一方で────
祐里佳から100年戦争の書物が盗まれたと聞き、大胆な行動に出る。
話が終わった後、由香はノアと実に話をしようと言うが。






由香side
キッチンから作ってきたホットミルクを二人の前に差し出した。緊張しているようだが、私は別に二人を咎めようとは思っていない。
由香
由香
ノアちゃん、実ちゃん。
ごめんね、急にあんなことを言い出して。
ノア
ノア
…だ、大丈夫、だよ?
実
……気にしなくて結構ですよ。
由香
由香
そんな顔をしてないから、言ってるのに。
顔面蒼白になって何を言っているのだろうか。
ノアちゃんは手を震わせているし、実ちゃんだって虚ろな目をして俯いてる。
由香
由香
怖いんでしょ?過去がバレること。
過去みたいになるかもって。
実
っ……知っていながら、如何して…!!
由香
由香
…賭けてるんだよ。少しの希望に。
ノア
ノア
…き、希望って?
由香
由香
深雪ちゃんが教えてくれたの。
異力眼のことを話し合ったあの日。深雪ちゃんが私にとある「名探偵さん」の話をしてくれた。
全てを知っていながらも、聞かない。我が儘で子供みたいだけど、立派な大人だって。
あんな優しい目をした深雪ちゃん、久しぶりに見た。
由香
由香
心に残ってる小さな光が今
出てくるなんてね。本当に厄介だよ。
実
…深雪さんが、探偵社の人を
由香
由香
それに実ちゃんとノアちゃんも、まだ
そういう期待があるんじゃない?
だから、こうして私の話を聞いてくれているんだろう。
二人の過去が誰かに知られたくないのは分かる。
二人を引き取って、迎え入れて、光を見せたのは私だ。
由香
由香
(だから…二人には幸せになってほしい。)
ノア
ノア
…なら、約束…してくれる?
由香
由香
何を約束してほしいの?
ノア
ノア
由香お姉ちゃん…無理しないこと。
由香
由香
……ノアちゃん。
泣きそうな声だった。気付いてたのかな…私が祐里佳ちゃんから話を聞いて、暗い顔をしてたって。
実
…由香さんが私達を心配しているように…
私達だって、貴女を心配しているんです。
いい加減分かってください、と言いながら実ちゃんは顔をしかめた。
可愛いのに。なんて言ったら、怒られるだろうな。
由香
由香
分かった、無理はしないよ。
ありがとう、実ちゃん、ノアちゃん。
実
……約束破ったら、許しませんから。
ノア
ノア
い、一生呪うからね。
由香
由香
待って?!何処からそんな物騒な
言葉を習ってきたの?!
木心
木心
五月蝿いですよ、由香さん。
迷惑なので早く寝てください。
由香
由香
…スミマセン
可愛い末っ子だと思っていた子達が物騒な言葉を吐いて夜だとも忘れて、大声を上げてしまった。
しかし、冷たい木心ちゃんの辛辣さに目覚めさせられた。






那月side
翌日。由香さんから書類が入っている茶色の封筒を受け取って、星さんと共にある場所に来ていた。
那月
那月
星さん、準備は大丈夫ですか?
星
はい!準備万端ですよ!
那月
那月
…少しだけ静かに行きましょうか。
星
了解です、静かにしますね。
上を見上げれば高い高いビル。此処は横浜の港を牛耳る組織·ポートマフィアの本部ビル。
他人から見れば自殺行為だが、私達は書類を渡しに来ただけ。何も怖くはない。
道造
…誰だ、お前ら。侵入者か?
那月
那月
侵入者ではないですよ。
首領の森鴎外さんに会いに来ました。
道造
首領に…?何が目的だ?
星
暗殺などではないので安心してください!
星さんの言葉が終わると同時に、何処からか銃声が聞こえた。すぐ横を銃弾が通り過ぎる。
一葉
次は貴女の体を撃ちます。
道造
姐さんかよ…
ポートマフィア遊撃部隊の樋口一葉さん。異能力はないと聞いているが、銃の腕は確かだった。
那月
那月
戦う気はないですよ。
由香さんに怒られたくはないですし。
星
そうですね、由香さんは怒ったら
意外と怖いですから。
一葉
マフィアを舐めているのですか…?!
貴女達を殺すことなど容易な──
龍之介
銃を下ろせ、樋口。
一葉
っ…!芥川先輩!しかし…!!
樋口さんは嫌なようだったが、芥川さんの鋭い視線に負けたのか渋々銃を下ろしてくれた。
龍之介
久しいな、星。
星
お久し振りです、龍之介さん。
那月
那月
知り合いなんですか?星さん。
星
はい!舞踏会の時にお世話になって
そこで知り合ったんです。
一葉
(な、な…?!芥川先輩を名前で?!)
星さんがマフィアの危険異能力者と知り合いなのは予想外だったけど、それなら話が速い。
早めに終わらせて帰りたい。
星
龍之介さん、森鴎外さんに会わせて
いただけませんか?話をしに来たんです。
龍之介
僕の権限ではそのようなことは出来ぬ。
星
そうなんですか?難しいですね~。
芥川さんはマフィアの有力な戦力だけど、幹部などではない。そういうのが難しいのは、予想していた。
だから────
中也
おい芥川。首領の命令だ、通してやれ。
龍之介
…承知、中也さんに着いていけ。
星
良かったですね、那月さん。
入れましたよ~!
那月
那月
そうですね、苦労せずに済みました。
あの時の青年がまさか、ポートマフィアの一員だなんて。
中也
手前、俺の正体を知っていたのか?
那月
那月
いえ、昨日まで知りませんでしたよ。
ポートマフィア五大幹部の一人
重力遣いの中原中也さん。
中也
ッチ、俺の電話番号なんて良くも
調べられたもんだな。
那月
那月
時間は掛かりましたけど、
永遠の秘密なんて何処にもないですよ。
祐里佳さんの財閥の力を使って、裏を探らせてもらった。
そして中原さんのスマホにメッセージを送信した。
──『明日、マフィア本部に訪問するので事前に首領さんに報告をお願いします。』とね。
那月
那月
(さて…探偵社側は大丈夫なんでしょうか…)






癒乃side
来ない方が良かったかも。由香ちゃん…助けて。
深雪
深雪
はぁ…なんでよりによって、あんたが…!
乱歩
探偵社なんだから名探偵の僕が居るのは
当たり前だろ!
深雪
深雪
もう、ウザい。嫌だ。
乱歩
なんでそんなに嫌がるのさ!
深雪ちゃんから負のオーラが溢れてるのに、江戸川さんはずっと騒がしいし。
乱歩さんは通常運転だね~。
私も見習わなきゃかな、癒乃ちゃん?
癒乃
癒乃
ど、どうなんでしょうね?
冷たいね~?
そうせずに私を見てくれ給え。
癒乃
癒乃
近づかないでください…!
独歩
おい、太宰!いい加減にせんか、貴様は!
国木田くんは堅いね~。
独歩
貴様が緩いだけだ!
探偵社のソファーで太宰さんに迫られていた私を、国木田さんが助けてくれた。
そもそも私と深雪ちゃんは由香ちゃんに頼まれて、探偵社の事務所に書類を渡しに来ただけなんだけど。
珍しいこともあるね。
毎回、私達からは逃げていたのに。
乱歩
本当だよ~如何いう風の吹き回し?
深雪
深雪
勘違いしないでよね。
こっちは来たくて来たんじゃない。
あの莫迦に頼まれただけと、深雪ちゃんは吐き捨てる。
乱歩
社長は今、電話中だから
置いていったら?
深雪
深雪
直接渡せと言われてる。
何よりあんた達を、信用できない。
鏡花
私達は犯罪者じゃない。
深雪
深雪
関係ないから。
初対面の人間を信用できる訳ない。
確かに。由香ちゃんなら、マインドアイで心を読めるからあり得る話だけど。
私達はそうではない。確り手渡しをする。
ナオミ
癒乃さん…でしたわよね?
癒乃
癒乃
え?あ、はい。華月癒乃。
ナオミ
ふふ、谷崎ナオミですわ!
ナオミと呼んでください。
癒乃
癒乃
うん…よろしく、ナオミちゃん。
ナオミ
初めて見た時から、とても綺麗なお方で
友達になりたいと思ってまして。
まだ学生なのか、セーラー服を着た女の子が近くにやって来た。綺麗か…私は綺麗なんかじゃないのに。
皆さん、社長が戻りました。
深雪
深雪
はぁ…行くしかないよね。
癒乃
癒乃
憂鬱ですね、深雪ちゃん。
早く社長さんに渡して帰ろう。
マフィアの方も上手く首領さんに、渡せたのかな?






NOside
場面は変わりマフィア本部の最上階──首領の部屋。
鴎外
お願いだよエリスちゃん!
絶対に似合うからさ!
エリス
嫌よ!リンタロウは何時も必死すぎて
気持ち悪いの!
鴎外
お願い!この通りだから!
那月
那月
……誘拐ですか?
中也
何も言うな、ソッとしておけ。
那月は自分の目の前の光景に、唖然としていた。
横浜の港を縄張りにする凶悪な犯罪組織·ポートマフィア。その心臓たる首領が土下座をしている?
しかも、幼女の前で?フリフリのワンピースを持って?
星
那月ちゃん、大丈夫ですか~?
那月
那月
…今まで生きてきた中で一番
驚いただけです。
星
那月ちゃん、思考が停止してましたよ?
中也
んん"っ。
首領、例の件の二人を連れてきました。
中也の言葉が終わると同時に、部屋の中が真っ暗になって少しも経たないうちに薄い明かりが点いた。
鴎外
君達は何も見ていない、良いね?
那月
那月
別にマフィアの首領が幼女趣味だなんて
情報、流しても得にはなりません。
鴎外
痛い部分をついてくるね、君は。
那月
那月
由香さんに習いました。
星
ふふ、中也さん。そんなに焦らなくても
別に問題はありませんよ?
中也
問題大ありだろうが!ヒヤヒヤさせんな!
棘のあるように聞こえる那月の言葉に、内心で中也は焦っていた。
それが顔に出ていたのか、星が彼を落ち着かせる。
最悪の場合、首領の機嫌を損なえて殺されるかもしれないが鴎外は可愛いと、ただ流していた。
鴎外
それで君達が私に会いたいと、言ったのは
如何してかな?
那月
那月
書類を渡しに来ただけです。
星
所謂、宅配便の人ですね!
呑気にふわふわと、お疲れ様です!と、言う星を見て中也は溜め息を吐く。
緊張感がないのか、それとも慣れているのか。
一方、探偵社では。
諭吉
待たせてしまい、申し訳ない。
私が武装探偵社社長の、福沢諭吉だ。
癒乃
癒乃
いえ、お気になさらず。
静かな雰囲気がその場を支配していた。
なんと言うか、社長である諭吉の威圧が凄いというか。もしくは、喋らないだけかもしれない。
諭吉
それで貴殿達が渡したいものとは?
深雪
深雪
この書類。
中身は社の人間に公表しないで。
諭吉
承知した。
約束とならば、守ろう。
乱歩
僕には何が入ってるのか分かるけどね!
深雪
深雪
言ったら口縫うからね。
なら、もうお菓子なんて食べれないよ。
乱歩
それはヤダ!
乱歩の子供のような発言に、深雪の眉間の皺が更に深くなるのを癒乃は見ていた。
乱歩は深雪が怖いほど、不機嫌になっていることに気付いてないのだろうか。
彼なら無視をしていても、可笑しくないけれど。
諭吉
貴殿が乱歩が言っていた、月野深雪殿か。
深雪
深雪
…乱歩が何か言ったの?
諭吉
難事件を解決した頭の回る人物。と、
乱歩からは聞いている。
深雪
深雪
そうなんだ、上から目線だけど。
乱歩
ちょっと、社長!
言わないって約束だったじゃん!
頭脳明晰で誰も追い付けない推理力を持つ乱歩が、そんなことを言うなんて。
深雪は少し、認められたような気がして機嫌が良くなる。
────不意に彼らの言葉が重なる。
──『一体、何者なのか。』
那月
那月
貴方達が愛してやまない横浜の街を
傷つけるつもりはありません。
今のところ、敵ではないですから。
那月は意味深な笑みを残して。
星
また会いましょうね。
それまで、元気でいてください!
星は屈託のない純粋な笑顔で。
癒乃
癒乃
いずれ分かる時が来ますよ。
それまで、待っていてください。
癒乃は寂しそうな微笑を浮かべ。
深雪
深雪
…知っても誰かの得にはならないよ。
深雪は孤独のような顔を残す。
そして、少女達は自分達の居場所へと帰っていく。
────これでまた、一日が終わったと思いながら。

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