兄さんの傍に膝を付き、傷を覗き込む。
ナイフの刃は、兄さんの背中に深々と埋め込まれていた。
半狂乱になって叫びながら、ナイフの柄に手をかける。
道化師は取り落とした銃を拾いなおし、ニヤリと笑った。
ぺいんとさん達が、私達を庇う様に前に出た。
道化師の嗤い声が響いた。
突然、道化師の身体が浮き上がった。
背後から誰かが、道化師の襟を掴んで持ち上げている。
知らない男の人だ。
警察官の様な服装で、帽子を目深に被っている。
次の瞬間、道化師は床に叩きつけられた。
鈍い音がして、道化師はぐったりと意識を失った。
男の人は、ジロリとPKST団の人達を見た。
ステイサムと呼ばれたその人は、フンと鼻を鳴らした。
ステイサムさんは、私と兄さんの方に歩いてきた。
ステイサムさんは無造作に兄さんをひっくり返し、傷の位置を確認した。
その途端、兄さんが顔を上げた。
兄さんが手を伸ばし、嗚咽を堪える私の頭を撫でる。
こんな風にしてもらえたのは、もう何年ぶりだろう。
ステイサムさんが私を見下ろしている。
ステイサムさんは帽子を被り直し、静かな声色で言った。
平坦だが、重々しく。
また、どこか哀しさを含んだ響きだった。
何も言えず、ただ頷く私。
後は好きにしろ、と続けるステイサムさん。
ステイサムさんは私達に背を向けた。
ぺいんとさんは少し黙った後、笑って頷いた。
ステイサムさんはもう一度帽子を被り直し、展示室から去っていった。
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兄さんは「仲直りしようか」と、また私の頭を撫でた。
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我々怪盗団の人達は、私や奈緒と顔を見合わせた。
シャオロンさんが、私をひょいと抱え上げる。
賑やかな声を聞きながら、私は「アルカナ:フォーチュン」を見つめた。
神秘的な雰囲気だったそれは、今では私を歓迎するかの様に見えて。
私は小さく深呼吸してから、筆を取った。
胸が高鳴るのを、ずっと感じていたのを覚えている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。