朝の光が、静かにカーテン越しに差し込んでいた。
それは、“7人兄弟”として迎える初めての朝だった。
藤原丈一郎は、まだ誰も起きていないリビングで、静かにトーストを焼いていた。
キッチンは昨日から用意されていた最低限の家電と、福祉課から届いた食材でいっぱいだったが、それでもぎこちなさが残る空間だった。
(……まずは、ちゃんと朝ごはん作らな)
隣の部屋には、見知らぬ兄弟たちが寝ている。
それだけで、普段より何倍も神経を使っていた。
そのとき――ガチャ、と乱暴にドアが開いた。
「なに勝手にやってんだよ」
西畑大吾だった。パジャマ姿のまま、寝起きのくせに目だけは鋭かった。
「……朝ごはん作ってるだけやん。誰かがやらな回らへんし」
「俺の家事スケジュール、勝手に崩さないでくれ。うちの弟ら、朝はパンじゃなくてごはん派なんや」
「知らんがな。パンしか届いてへんかったやろ」
「だったら言えばいいやろ?」
火花が散るような空気が流れた。
丈一郎と大吾――
“長男”同士のプライドが、さっそくぶつかっていた。
「……俺の弟らの生活ペースは俺が守る」
「それ言うなら、こっちもや。俺の弟守るんが俺の役目や」
お互い、一歩も引かない。
そのとき、寝室のほうからバタバタと足音が近づいてきた。
勢いよく入ってきたのは、駿佑と恭平。
「おなかすいたー!」
「パンのにおいするー!」
2人の笑顔に、一瞬だけ張り詰めた空気がゆるむ。
しかしそのあと、もう一人の“爆弾”が起きてきた。
「なんやねん、この布団の配置!狭すぎるやろ!」
和也だった。寝ぐせ頭でキレながらリビングに突っ込んできた。
「俺と大吾、寝る場所逆やったんか? てか、誰の歯ブラシがどれか分からんし!」
「俺も分からんかった……」と、謙杜が小さくつぶやいた。
そして、泣き声が聞こえた。
スタッフが連れてきていた流星が、突然声を上げて泣き出したのだ。
「あっ、流星……!」
大吾がすぐに向かおうとするが、丈一郎が先に動いた。
抱き上げて、背中をぽんぽんと軽く叩く。
「……大丈夫や。おなかすいたんやな、ちょっと待っててな」
その姿に、大吾はぴたりと足を止めた。
(なんやこいつ……普通に……慣れてる……?)
そのとき、ふいに大吾の中で何かがほどけたような気がした。
「……ミルクは、哺乳瓶ここにある。温度はぬるめの方がええねん」
「了解。任せるわ」
初めて交わされた、素直な言葉だった。
誰かの泣き声、誰かの怒鳴り声、誰かの笑い声――
めちゃくちゃで、騒がしくて、うまくいかない初日の朝。
だけどそれは、「家族の朝」としては、きっと自然だった。
丈一郎は、ふと笑った。
「……これ、毎日続くんかなあ」
「続くやろ。俺らが止めへん限りは」
と、大吾もぽつりと返した。
目が合って、ふたりは無言のままうなずいた。
――兄弟ってなんなん?
血じゃない。
育った家も違う。
だけど、こうして共に目覚めて、食卓を囲んで、泣いて笑って、ケンカして。
たぶんそれが、「選んだ家族」ってやつなんだろう。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!