昼下がりのリビングには、まだどこか仮住まいのような空気が残っていた。
「とりあえず、座ろうや」
丈一郎の提案で、全員が円になるように座り込む。座布団なんてない。床に直接、バラバラの体勢で。
「これ、家族会議ってやつか?」
恭平が飽きた様子で寝転びながら聞いた。
「そうや。これから一緒に暮らしてくんやし、ルール決めな無理やろ」
と、大吾が答える。
「でもさ〜ルールって、なんかうるさい感じする」
謙杜がぼそっとつぶやく。
「うるさい方がええ。ちゃんと決めとかなケンカばっかりになるで」
和也が肩をすくめた。
誰もが薄々感じていたのだ。このままじゃ、この家は長くもたないと。
「まず、歯ブラシ!色分けしよや。マジで朝から地獄やった」
和也が真っ先に叫んだ。
「あと寝る場所な!駿佑が俺の足踏んでくる!」
と、恭平。
「俺のせいちゃうし!」
と、駿佑が反論。
「お風呂の順番も決めよう」
大吾の声に、全員が一瞬うなずいた。
「お風呂終わったら“出たよカード”ぶらさげるとか?」
丈一郎の案に、謙杜が「それ、いいかも」と笑った。
「あと、家事な。誰が何やるか」
大吾の声が少しだけ固くなった。
丈一郎も目を細めた。「それは……ちゃんと話そか」
沈黙が流れた。
それぞれの中に“長男としての意地”や“やってきたやり方”がある。
でも、それだけじゃもう、やっていけない。
「……役割は、“みんなで”決める。俺ら、もう7人兄弟やから」
丈一郎のその言葉が、空気を変えた。
「せやな。1人で背負わんでもええってことか」
大吾が少しだけ笑って言った。
そして、ルールがひとつ、またひとつと決まっていった。
歯ブラシは名前シールつける
寝る場所は週替わりでローテーション
お風呂は年齢順、でも急ぎたいときは交渉可
家事当番はホワイトボードに書き出す
ケンカしたら、絶対に“ごめん”を言う
「……最後のルール、いちばんムズいな」
恭平がぽつりとこぼした。
「でも、いちばん大事かもな」
丈一郎が静かに返した。
ルールは完璧じゃない。けど、ここで過ごすための“最初の地図”だった。
「この家、ちょっとずつやけど、“うちらの家”になってきたな」
謙杜のそのひと言に、全員が、どこか照れたように笑った。
小さなルールから始まった、7人兄弟の共同生活。
トラブルはこれからも絶えない。
だけど、この日確かに“家族のかたち”が動き出した。
▶次回・第5話
「ケンカしたって、兄弟やから」
家事の分担をめぐって、最初の大きな衝突が起きる。
それでも、逃げずにぶつかり合うのが兄弟の証――












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!