それは、ある平日の夕方のことだった。
食卓に、焦げかけたハンバーグが並んでいた。
それでも、駿佑と恭平は嬉しそうにかぶりついている。
「うま!丈兄の料理、マジでプロやん!」
「そやろ〜、やればできるんやで」
丈一郎は得意げに笑ったが、その後ろでは、大吾の顔がピクリと動いた。
「……言うとくけど、本来の担当は“俺”やからな。今日の晩飯」
「え、でも俺、買い出しも調理もやったで?」
「それ、勝手に変わっただけやろ。昨日ホワイトボードにちゃんと書いてたやん。見たか?」
その言葉に、空気がぴりつく。
「見たけど……やるって言うたから、俺が」
「だからって、それで帳消しにされたら意味ないやん。ルールってなんのためにあるん?」
丈一郎が立ち上がる。
「文句あるなら、最初からそう言えや」
「言ってるやろ、今!」
「今やなくて、“そのとき”や!」
一瞬、食卓が静まり返った。
恭平と駿佑が顔を見合わせ、謙杜はそっとスプーンを置いた。
和也は口を開きかけて、何も言わず立ち上がって部屋を出て行った。
その背中を見送る丈一郎と大吾。
怒りと気まずさが交錯して、何も言えなくなっていた。
──その夜。
洗面所で、謙杜がそっと丈一郎に声をかけた。
「……兄ちゃん、ケンカするの、いや?」
「そりゃ、楽しいもんちゃうやろ」
「でも、うちは前の家で……ケンカすらできひんかった。
話しても無駄やって思ってたから、黙るしかなかった」
丈一郎がはっとしたように謙杜を見る。
「せやけど、今は違う。兄ちゃんら、ちゃんとぶつかってる。
それって、うらやましいなって思った」
丈一郎は黙ったまま、少しだけ笑った。
「……そっか。ありがとな」
一方、大吾は和也の部屋をノックしていた。
「さっきの、ごめん。俺、怒りすぎた」
「別にええよ」
布団にくるまったままの和也が返す。
「……でも、お前がちゃんと“怒った”の、俺初めて見たかもしれん」
「……は?」
「家って、“遠慮せんでええ場所”やからさ。怒るのも、泣くのも、言い合いも、全部ふつうのこと」
しばらくして、和也がぼそっと返した。
「……めんどくせえな、家族って」
「めんどくさいけど、1人よりはマシやろ」
翌朝。
リビングに集まった7人は、何となく昨日よりもリラックスしていた。
「なあ、今日の晩ごはん、2人で作らん?」
丈一郎が、不意に大吾に声をかけた。
「は? ……別に、ええけど」
「今度はちゃんと、“当番表”見てな」
「お前こそな」
顔を見合わせて、2人は笑った。
ケンカをしたからこそ、分かることがある。
怒ったからこそ、言えたことがある。
兄弟って、簡単じゃない。
でも、簡単じゃないから、ちゃんと“家族”になっていける。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。