第6話

ケンカしたって、兄弟やから
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2025/08/13 07:00 更新
それは、ある平日の夕方のことだった。
食卓に、焦げかけたハンバーグが並んでいた。
それでも、駿佑と恭平は嬉しそうにかぶりついている。

「うま!丈兄の料理、マジでプロやん!」

「そやろ〜、やればできるんやで」

丈一郎は得意げに笑ったが、その後ろでは、大吾の顔がピクリと動いた。

「……言うとくけど、本来の担当は“俺”やからな。今日の晩飯」

「え、でも俺、買い出しも調理もやったで?」

「それ、勝手に変わっただけやろ。昨日ホワイトボードにちゃんと書いてたやん。見たか?」

その言葉に、空気がぴりつく。

「見たけど……やるって言うたから、俺が」

「だからって、それで帳消しにされたら意味ないやん。ルールってなんのためにあるん?」

丈一郎が立ち上がる。

「文句あるなら、最初からそう言えや」

「言ってるやろ、今!」

「今やなくて、“そのとき”や!」

一瞬、食卓が静まり返った。

恭平と駿佑が顔を見合わせ、謙杜はそっとスプーンを置いた。
和也は口を開きかけて、何も言わず立ち上がって部屋を出て行った。

その背中を見送る丈一郎と大吾。
怒りと気まずさが交錯して、何も言えなくなっていた。

──その夜。

洗面所で、謙杜がそっと丈一郎に声をかけた。

「……兄ちゃん、ケンカするの、いや?」

「そりゃ、楽しいもんちゃうやろ」

「でも、うちは前の家で……ケンカすらできひんかった。
話しても無駄やって思ってたから、黙るしかなかった」

丈一郎がはっとしたように謙杜を見る。

「せやけど、今は違う。兄ちゃんら、ちゃんとぶつかってる。
それって、うらやましいなって思った」

丈一郎は黙ったまま、少しだけ笑った。

「……そっか。ありがとな」

一方、大吾は和也の部屋をノックしていた。

「さっきの、ごめん。俺、怒りすぎた」

「別にええよ」
布団にくるまったままの和也が返す。

「……でも、お前がちゃんと“怒った”の、俺初めて見たかもしれん」

「……は?」

「家って、“遠慮せんでええ場所”やからさ。怒るのも、泣くのも、言い合いも、全部ふつうのこと」

しばらくして、和也がぼそっと返した。

「……めんどくせえな、家族って」

「めんどくさいけど、1人よりはマシやろ」

翌朝。

リビングに集まった7人は、何となく昨日よりもリラックスしていた。

「なあ、今日の晩ごはん、2人で作らん?」
丈一郎が、不意に大吾に声をかけた。

「は? ……別に、ええけど」

「今度はちゃんと、“当番表”見てな」

「お前こそな」

顔を見合わせて、2人は笑った。

ケンカをしたからこそ、分かることがある。
怒ったからこそ、言えたことがある。

兄弟って、簡単じゃない。
でも、簡単じゃないから、ちゃんと“家族”になっていける。

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