その日、夕方になっても、和也が帰ってこなかった。
学校から帰るはずの時間を1時間過ぎても、連絡はなし。
スマホを持っていない和也に連絡の手段はなく、兄弟たちはそわそわし始めていた。
「まだ、寄り道してるだけちゃうか……?」
丈一郎の声もどこか不安を含んでいる。
「でも、あいついつもなら真っ先に帰ってくるやろ。
テレビの時間とか、ごはんの時間、めっちゃ気にするし」
恭平がソファで足をゆらす。
「なにかあったんやろか……」
謙杜が小さな声でつぶやく。
「……俺、ちょっと探してくるわ」
大吾が立ち上がった。
「俺も行く」
丈一郎がすぐに続いた。
2人が出て行ったあと、残された兄弟たちは、静かにリビングで待った。
駿佑は流星を抱いて、背中をとんとんしながら、落ち着かない様子で時計を見る。
恭平は、無言で和也の座布団をぽんぽんと整えた。
──1時間後。
玄関が、ギィと音を立てて開いた。
「……ただいま」
静かなその声に、全員が振り向いた。
そこにいたのは、少しだけ泥だらけの和也。
大吾が後ろからついてきて、ほっとした表情で玄関の壁にもたれた。
「どこ行ってたんや……!」
丈一郎が言いかけたが、その言葉を止めた。
「ごめん……何か、急に、帰りたくなくなった」
和也がうつむいたままつぶやいた。
「なんかさ、最近みんな仲良くなってきて……
それが嬉しいけど、置いてかれてる気もして。
うまく言えへんけど、ちょっと、逃げたかった」
しん、と静まり返る部屋。
「ええやん、それ」
謙杜がぽつりと声を上げた。
「逃げてもええよ。帰ってきてくれたら、それでええから」
和也が顔を上げると、駿佑が言った。
「“ただいま”って言ったの、ちゃんと聞こえたで」
和也の目に、ふっと涙がにじんだ。
「“おかえり”って言って」
小さな声でそうつぶやいた。
「……おかえり」
恭平が、少し照れくさそうに笑った。
「おかえり」
謙杜も、丈一郎も、大吾も、駿佑も、流星までもが、まるで合唱のようにそう言った。
“ただいま”がある場所。
“おかえり”が返ってくる家。
それが、「帰る場所」の意味なんだと、全員が少しだけ分かった気がした。
──夜。
寝る前、和也はそっと大吾に声をかけた。
「……ありがとうな。探しに来てくれて」
「兄貴やからな。あたりまえや」
その言葉に、和也がにやっと笑った。
「じゃあ、明日の朝ごはん当番、交代してくれへん?」
「図々しすぎるわ!」
「兄貴やろ?」
2人の笑い声が、夜のリビングにこだました。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。