「こういうのもさ、陸くんはいま出来ないってことだよね」
コンビニで買った唐揚げ棒を片手に、勇志がぽつりと呟く。
会社を出てすぐの場所にある小さなコンビニ。
夜勤前らしい作業着姿の男や学校帰りの高校生、煙草を吸うサラリーマンなど様々な人間が出入りする自動ドアの前で、ふたりは残業前の小さなご褒美みたいにホットスナックを買った。
ビルに囲まれた都会の空は狭くて、見上げても星なんて全然見えない。
それでも勇志は、唐揚げ棒を持ったまま空を見ていた。
重たい空気はいつも突然訪れる。
つい先ほどまで、シオンの愚痴をこぼしながら、その小さな悔しさや怒りは唐揚げ棒へと変わり。昔は百円で大きな唐揚げが四つ刺さっていたのに、どうして今は二百円でこんなに小さな唐揚げなんだ、物価高ってなんだよ、てか備蓄米あるならあの時もっと早く出してほしかったよな、お偉いさんはほんといいよな、庶民の苦労なんて知らないから税金も下がらないんだよ、てか給料上げるように総理がもっと企業に働きかけろ、なんてこの国の不満をつらつら述べてたと言うのに。
急に静かになった勇志の横顔を見て、咲哉は食べる手を止めた。
「どうしたの」
「…ん」
「どうしたのよいきなり」
聞けば、勇志は「あ~~……」と間延びした声を出して体を斜めにする。
視線はまだ空に向いたまま、何度も声を出しては黙る勇志を見て、また始まった、と咲哉は思った。
勇志はたまにこうなる。急に現実から離れた場所へと行ってしまう。話しかけても返事が遅いし、何を考えてるのか分からない。宇宙と交信してるみたいだ、と前に遼が笑っていたけれど案外間違っていない気がした。
しばらくしてから、勇志が小さく口を開く。
「頭から離れない」
「なにがよ」
「陸くん」
「…」
「陸くんが、ずっと頭の中にいる。寝ても覚めても、隣いるみたいに、ずっといる」
その言い方が、まるで熱に浮かされた人みたいで。
咲哉は何も言わず、ただ勇志の綺麗な横顔を見た。
「……」
「おれ、おかしくなったかも」
あの日から、本当に勇志はおかしくなった。
いや、おかしいという言葉は正しいのか分からないけれど。でも徐々に波に飲み込まれ、もう少しで足元をすくわれそうなのは確かだった。たった、本当にたった数時間しか一緒にいなかったはずなのに、勇志の中には何故か陸がこびりついたように住み着いていた。
朝起きた時。
陸は今日、目を覚ましただろうかと不安になる。
昼ご飯を食べる時。
ちゃんと何か食べられているだろうかと心配になる。
風呂に入る時。
吐いていないだろうかと考える。
眠る前。
本当は泣いてたりしないだろうかと想像してしまう。
考えても仕方ない、そんなの分かってる。
答えなんて出るはずもないし、考えたところで陸の病気が治るわけでもない。それでも勇志の頭の中には、ずっとあの笑顔が魅力の陸がいた。この気持ちはまるで、泡沫みたいだった。水面にぷくぷく浮かんでは消えていく泡。消えたと思ったのに、また次の波が来るたび新しく生まれて、気づけばまた視界を埋め尽くしている。忘れたいのに、忘れられない。考えないようにしようとするほど、余計に陸のことばかり浮かんでくる。
正直、全部陸のせいだった。
あんなふうに笑うから陸が悪い。「また会いたい」なんて真っ直ぐ言うから。「タイプだよ」なんて、冗談みたいな顔して何度も言うから。何度もドキドキさせる言葉でからかってくるから。余命一年だなんて嘘みたいに明るくて、人懐っこくて、春の陽だまりみたいな空気を纏っているくせに、時々ふっと、全部を諦めてしまった人みたいな目を見せたりするから。
陸のせいだよ。
気になって仕方なくなる。今日は元気なのか、辛いのか、それだけでも教えてほしいだなんて立場をわきまえることも出来ずにそんなことばかり考えてしまう。一度しか会ったことのない、いわば他人なのに、余裕がなくなるほど彼が中心で一日が終わってしまう。取材相手と記者、それだけの関係なはずなのに。
どうしてこんな素敵な子が、病に侵されたの?
ねえ神様、なんでよりにもよってこの子だったの?
取材をしている最中、何度も浮かんだその疑問が、今度は勇志自身の首を絞めてくる。
もっと生きていなきゃいけない人間が、どうして死に近づかなきゃいけないんだろうって。どうして人を傷つける人間は平気な顔で生きていて、陸みたいな人ばかり苦しまなきゃいけないんだろうって。なんで、なんで?なんであんなに素敵な人が?なんで、陸くんが?
気づけばここ一週間、勇志の世界はその疑問ばかり溢れかえっていた。
「なんでさ、人殺しは生きてて、善人は死ぬ運命なの」
その問いに、咲哉はすぐに答えなかった。
三年間一緒に働いてきて、勇志が見た目以上にずっと繊細な人間なのは知っている。人の感情を拾いすぎるし、空気を吸いすぎるし、誰かの痛みを自分のものみたいに抱え込んでしまう癖があるのをよく見てきた。だからこの仕事は彼に向いているようで向いていないことにも気づいていた。文章を書く才能は間違いなくある。けれど、毎度毎度、取材対象との距離感があまりにも危ういから。シオンが暇さえあれば「ウシは危ない」と言うのも、間違いじゃなかった。
勇志は、簡単に情を移す人間。
そして移した情を自分で切り捨てられるほど器用なタイプではない。そして陸は多分、その一番危険なところに触れてしまったのだと思う。勇志の事情も、こちら側の立場も、そんなもの全部飛び越えるみたいに。
陸はあまりにも素直に簡単に、帰り際『俺、ゆうしのこと気に入った。またすぐ会いたい』なんて言った。
まるで春風が閉め切った部屋のカーテンを勝手に攫っていくみたいに。その無防備な言葉は、誰にも触れられないよう静かに蓋をしていた勇志の心へするりと入り込み、小さな火を灯したんだろう。
きっとあの言葉を、勇志はまだ抱えているに違いない。
咲哉は最初から薄々気づいていた。
こうなることを。
「……」
「ねー、なんでなにも言ってくれないの」
「…ん」
「さくやってば」
「俺はいま、なんて言うべきか考えてる」
「どういうこと」
「だから、はぁ…これだからたまに勇志と話すのは難しいの」
「なにそれ、おれが迷惑ってこと?」
「話飛躍しすぎ。誰も言わないよそんな酷いこと」
勇志は少し面倒だし、かまってほしいくせに素直じゃないし、不安ばかり抱えて生きている。
勇志の心には、いつも雨が降っていた。
理由なんて咲哉にも分からない。ただ、彼の心はずっと何かに濡れている。静かで、冷たくて、終わりの見えない雨。誰にも見えない夜の奥で、ひとりきりに降り続けているみたいな雨。ザーザー降っては弱い勇志を更にふやかしていく。だけど陸はきっと、何気なく勇志の心に傘を差したのだろう。本人にそんなつもりはないのだろうけれど。でも勇志にとっては、その何気ない優しさや愛が、こうしてどんどん大きな意味を持ち始めたのだと思う。
だって隣にいれば陸のことばかり話題に出してくるのだ。
勇志がいつも以上に肩入れしていることくらい、毎日一緒にいれば察するのなんて簡単だった。
「とにかく考えても無駄なこと考えたらダメだと俺は思うよ、勇志」
「分かってるよ、そんなことは」
「てか少しは直したらどう?その性格。自分で自分を傷つけてばっかじゃん」
「お前さいてー…は、なに?直らなくて悩んでる人に向かってそんな事軽々しく言う?」
「だーかーら、勘違いしないで。絶対直してなんて言ってるわけじゃなくて。俺は別にあなたがその性格してるから嫌うとかそういうわけでもなくて」
「…」
「面倒だとか、迷惑だとかも思わないけども。だけどもう……苦しんでるとこ見るのだけはごめんだから。苦しむぐらいなら無駄なこと考えないでって」
「……ごめん」
「ねーもうやめてよ謝るの」
「……」
「ここからそんな調子で一年間密着できるの?」
特別優しい咲哉がなるべく責めない言葉で聞いてあげる。
少々面倒な勇志は、唐揚げをちびちび齧りながら、小さく眉を寄せた。
「てかなに、本当に一年間も密着できるの?」
「……ん?どゆこと」
その質問に、咲哉は首を傾げる。
勇志は少しだけ黙って、残りの唐揚げを長い時間見つめると、風にさえも飛ばされそうな小さな声を出した。
「調べちゃいけないと思いながら…、色々、陸くんの病気について調べた」
「いや、それは調べるでしょ。俺も普通に勉強してる。原稿書くのに役立つし」
「じゃあ分かるじゃん」
若年性胃がん。
胃がんは胃の粘膜にできる癌だが、そのなかでも胃の壁を硬く、厚く変形させながら広がっていくタイプがスキルス胃がんと呼ばれるものだ。進行速度が早いうえ、腹膜播種を起こしやすいことも特徴のひとつで、一般的な胃がんとは違い、内視鏡検査でも分かりやすい病変が見つからないケースが少なくない。気づいた頃には、もう手遅れだった。そんな話も珍しくない病気らしい。
実際、陸もそうだった。
異変を感じて病院へ行った頃にはすでに癌は進行していた。スキルス胃がんのステージ4ともなると、外科手術による根治は難しい場合が多い。抗がん剤治療や免疫療法、緩和ケアなどを続けながら、病気の進行を抑えていくしかない。もちろん近年は医療も進歩している。それでも、「完治」という言葉に辿り着けるケースは決して多くない。スキルス胃がんに限った統計ではないが、一般的に胃がんステージ4の五年生存率は一割にも満たないと言われている。
そんな現実の中で、陸は余命一年を宣告されたのだ。
まだ二十代なのに。
「もしかしたら、明日死ぬかもしれないんだよ。一年間ちゃんと、密着できると思う?途中で死んじゃったらどうすんの?」
その言葉に、咲哉はまた静かに息を吐く。
夕方の空は群青色に変わり始めていた。
このままだと勇志が群青色に飲み込まれて押しつぶされそうだ。
この話題をこれ以上、引き伸ばすわけにはいかない。
「…それより今は、原稿のこと考え直そうか」
「……」
「シオン先輩の言うことも正しいからさ。もう一回二人で、」
「ねえ咲哉」
「なに」
「取材の日以外に、陸くんに会いに行っちゃダメなの」
咲哉は目を伏せた。
ああ、やっぱり始まった、と言いたい気持ちを隠してなるべく冷静な表情を作ると、いいも悪いも言わずに呟く。
「……またそれね」
これだから本当に。
優しすぎる勇志に、こんな企画、任せるべきじゃなかったのに。
「学ばないね…、得能勇志って人は」
「よくそんな酷い言葉が出るよね、藤永咲哉って人は」
「今のは酷く言ってんの。分かって言ってるから」
「……」
「犬と猫の殺処分の記事やってた時もそうだったし、無差別殺人の件だってそう…。あんなに暴走して苦しんだのに、また繰り返すの?」
一年前。
長野県の商店街で起きた無差別殺人事件。
当時、勇志と咲哉は掲載記事の担当を任された。現場の空気感や証言、犯人の背景、被害状況。溢れ返る情報の中から必要なものを選び、整理して文章にし世に出す。それが仕事だった。本来ならそれだけでよかった。なのに勇志は、仕事以外の時間まで事件の中に入っていった。
休みの日にわざわざ、被害者家族のもとへ足を運んだ。迷惑極まりない話だ。泣きながら『こんな記事を書いてごめんなさい』と謝り、亡くなった被害者の女の子の墓参りにまで行った。ただ情報を世に発信するだけでいいはずの立ち位置にいる彼は、被害者のみんなの気持ちを知りたいのではなく分かってあげたいという気持ちから勝手に暴走したのだ。
結果、勇志は事件の凄惨さに心を壊しかけた。
二週間近く会社に来れなくなり、夜中に突然電話をかけてきて、『なんであんな殺され方しなきゃいけなかったんだろう』と泣いて喚いていた日もあった。あの時は本当に危なかった。シオンが『もうライターから外そうか』と本気で悩んだくらいには。
だけど、勇志はまた懲りずに同じようなことを繰り返した。
ついこの前まで担当していた、犬と猫の殺処分の記事。単独で動物愛護団体へ取材に行き、休みの日にボランティア活動まで手伝っていたと知ったのは、遼がたまたまその必死な姿を見かけたからだった。名もなき犬に名前をつけて、猫に自らの手で餌を与えて、譲渡会には顔を出し、弱い心で命に触れすぎた勇志。
情が移るには十分すぎた。
だからこそ、あの日。
施設職員の笹井が、淡々と処分のボタンを押した瞬間、勇志は壊れたように泣いた。ガラス越しに消えていく命を見ながら過呼吸を起こし、仕事中だというのに仕事が手につかない顔で傷心してしまい、咲哉も含めてシオンに怒られるはめになった。
そうやって本気で苦しめる勇志だからこそ、書ける文章があるのも分かっている。人の痛みの温度まで掬い上げるような文章をこの人は書いてしまうから、才能があるのも確か。だけどそれを続けていたら確実にダメになる。感情的になり過ぎたら自分が破壊される。現に一度しか会ったこともない陸に、もうこんなずぶずぶ浸かってるなんてどうかしている。
咲哉はただただ、勇志が心配でならなかった。
「次にまたやったらシオン先輩に本気で怒られるよ」
「………」
「勇志、ほんとにお願いだから」
「ねえ」
「なに」
「なんでこんなにうるさい人生なんだろ」
「は?」
世界中のはてなマークを集めて抱えたみたいに、咲哉は骨を抜かれた顔して勇志を見た。
また突拍子もない言葉に、すぐ返事を返せるわけもなく。
「…それは、どういう……」
俺が口うるさ過ぎただろうか。
か細い声で自信なく言葉を返してみれば、こんな空気の中でも最後の一本の唐揚げをちびちび食べ始めた勇志。
よく今そんな普通に食えるな、と言いかけたが、その横顔があまりにも疲れて見えたから、口を閉じた。本気で悩んでいそうな顔に、冷たい言葉などかけられない。
「…ゆうし?」
「おれの頭の中って、すごくうるさい」
どこか怒っているみたいな声だった。
自分自身に苛立っている時の勇志は、たまにこういう喋り方をする。
「頭の中がうるさい…?」
「うん。うるさすぎて、どうしたらいいか分かんなくなる」
勇志は思わず、力を入れて歯の音を鳴らしながら咀嚼した。
どうしてだろうか。みんなこうじゃないのだろうか。
勇志は自分に一番腹が立っていた。
自分は決して馬鹿ではない。だから人にダメだよと言われること自体は理解できる。ダメだ、踏み込みすぎるな、情を移すな、仕事として線を引け。そう言われれば、その通りだと頭では理解できる。だけどその直後。頭の中の別の自分が勝手に喋り始める。『でももし明日、陸が死んだらどうする?お前、絶対後悔するよ。もっと話しておけばよかったって、一生思うよ。それでも仕事だからって割り切れるの?』と耳を塞ぎたくなるほど声がする。
知らないよ。
黙ってよ。
そう思っても、消えてくれないから、分からなくなる。正しいことを言う自分と、感情だけで動こうとする自分。そのどちらも間違っていない気がして、優先順位が分からなくて苦しくなる。
今までもずっとそうだった。
無差別殺人事件の時だって、記事を書くこと自体は簡単だった。情報を並べ、犯人像を書いて、被害状況をまとめれば記事にはなる。でも、それだけで終わらせたくなかった。痛かっただろうな、とか。怖かっただろうな、とか。七歳で人生が終わるってどんな気持ちだったんだろう、とか。そんなことばかり考えてしまった。きっと怖い思いをして、泣きながら亡くなったであろう小さな命を題材に、これで飯を食って給料が振り込まれることが、どうしようもなく罪悪感だった。だからせめて一度、「ごめんね」と言いたかった。こんな形であなたの人生を記事にしてごめんね、と。ご家族のもとへ行ったのも、そのためだった。突き放されても、迷惑そうな顔をされても、深々と謝罪して、墓地の場所だけは聞いて、花を持って行った。こんなのダメだと分かっていながら、そうでもしなきゃやりきれなかった。
犬と猫の殺処分も同様に。
処分される動物たちが、どんな目で人間を見ているのか知りたかった。怖いのか、諦めているのか、それともまだ期待しているのか。何も知らないまま文章にしたくなかった。与えられた資料だけ見て、決められた構成に沿って綺麗にまとめて。それで何になるんだろう、と。もっと自分の目で見たい。もっと自分の耳で聞きたい。もっと、自分が感じた温度で書きたい。その衝動を抑えることなど不可能だった。
ずっとこんなことをしていたら秩序や自分自身が壊れることなど分かってる。
これは仕事で趣味じゃない。感情だけで書いていい世界じゃない。編集部には編集部の正しさがあるし、シオンの言うことがいつだって正論だ。読まれる記事を書かなければ意味がない。届かなければ存在しないのと同じだから。分かっている。ちゃんと分かっているのに。
でも、それでお前は満足なの?
お前は、本当にそんな記事を書きたいの?
本当は何を伝えたいの?
頭の中で、もうひとりの自分がずっと問いかけてくる。息が詰まるんだ。何が正しいのか、どこまでが優しさで、どこからが自己満足なのか。その境界線がずっと分からなくなるから。
「もう……おれ、自分がよく分かんない」
小さく零した声は、掠れて足元に落ちた。
咲哉はそんな勇志を見ながら、ゆっくり息を吐く。
「俺も。勇志はほんとによく分からない」
「……」
「でも、分かってあげたいとは思ってる」
その言葉に、勇志の睫毛がわずかに揺れた。
「無理だよ、それ」
「無理でもだよ。無理でも理解してあげたい」
「なんでおれって…こんなめんどくさいの」
「それなー」
「……」
「あーもう、本当に面倒くさい人が同期になったー」
わざとらしく言って、咲哉は勇志の肩を小突いた。
こんなに病みながらもちゃっかり唐揚げだけは食べきっていた勇志が、竹串をクルクル回しながら咲哉を見る。
「…なに」
「内緒にしとくよ」
「……え?」
「次の休み。陸くんのところ行ってきな」
その瞬間、勇志は情けなく眉の形を変えて止まった。
咲哉はそんな顔を見ないように、わざと視線を逸らす。
俺は本当に馬鹿だ。
こんなの、賛成したくないに決まってる。
絶対また深く入り込んで、俺はこのメンヘラ勇志に振り回されることになる。
きっとまた今日を後悔することになる。
だけど。
勇志は俺が思っている以上に。
ただ、単純に優しいだけだろうから。
「代わりに今日、もう一回原稿ちゃんと考えよう」
「……」
「悩むのはそのあと。まずはさ、次に陸くんに会った時、胸張れる記事作んなきゃ」
「…さくや」
「なに?」
「だいすき」
「……」
「だいちゅき」
「…都合よすぎるでしょ」
今更笑う勇志は笑顔がよく似合う。
泣き顔見せられるよりまだマシだ、と咲哉は自分に言い聞かせた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。