



「 ねぇ莉央 」
「 んぁー??どうした?梨花 」
寮のリビングで勉強をしていた時、風呂上がりの梨花に背中をつつかれた。
だから俺は手を止めて梨花の方を振り向く。少し濡れている髪の毛の梨花は、いつもとは少しだけ違う雰囲気を感じた。
「 ……あのさ 」
「 えっと…… 」
梨花は少し悩んだ顔をして、そのままそっぽを向いてしまった。
なにか思ったことがあれば素直に言ってくれればいいのに、なんで躊躇うんだろう。俺はそれが不思議で堪らなかった。
「 ……ごめん。なんでもない 」
「 そう? 」
「 なんかあったら言えよー? 」
「 わかってる 」
梨花は少し意味深な顔をして、リビングから出ていってしまった。
……変なの。どうしたんだ?あいつ。
「 お前ってほんと察するの嫌いだよね 」
「 うわぁっ!?!?!? 」
勉強に戻ろうとしたら、いつの間にか来夏が俺の目の前に座っていた。
気配なんて感じなかった俺は、思わず肩を震わせてペンを床に落としてしまった。
「 だっさ!!笑笑 」
「 お前のせいだからな!!!! 」
ケラケラと笑う来夏に呆れながら俺は落としたペンを拾う。そして勉強を再開することにした。
「 ちょっと。可愛い来夏ちゃん様の話を聞く気はないわけ? 」
「 お前を可愛いって思ったことないから聞かない 」
「 可愛いって思えよ!!!!! 」
「 可愛いのは梨花だけー 」
「 こいつ…… 」
すると来夏は不満そうに声を漏らした。でも俺は来夏のことなんて全く興味がないから勉強をしながら会話を何となく行うことにする。
「 ……梨花がなんて言おうとしたか気にならないの? 」
俺は思わず、その言葉で勉強の手を止めてしまった。
……こいつは何か知ってるのか?
「 ……そりゃ気になるけど……無理に聞くもんじゃない気がするし…… 」
「 莉央ってほんと鈍感だよねー。察することが出来ないバカでしかない 」
「 バカじゃねぇよ!! 」
来夏の言葉が癪に障る。俺は別にバカな訳ではない。あと鈍感でも無い。
「 ……莉央って昔のこととか覚えてたりしないの? 」
「 昔のこと? 」
質問の意図が理解できなかった俺は、思わずオウム返しをしてしまった。でも来夏はそれを想定していたのか、特にこれといった反応をしないで俺の質問に答える。
「 ちっちゃい頃の話。梨花と昔何してたのかとか覚えてないの? 」
「 断片的ではあるけど覚えてるっちゃ覚えてるよ 」
「 どんなことを覚えてるの? 」
「 どんなことって…… 」
梨花は人見知りだったからよくクマのぬいぐるみ越しに自分の気持ちを伝えてきたこと。
昔からしっかりしてたこと。
お父さんにはずっと冷たかったこと。
……こんなもんしか覚えてないなあ。
てかそもそも、俺あんま昔のこと覚えてないんだよな……。
「 覚えて無さすぎでしょ…… 」
「 うるせぇなぁ!そういう来夏は何か覚えてることとかあんのかよ! 」
「 昔からずっと可愛かったとかかな 」
「 そう 」
相変わらずこいつは自己肯定感が高いようで。
……って、そうじゃないそうじゃない!!
「 なんで急にそんなこと聞いてくるんだよ!それが何か関係あるって言うのか!? 」
「 うん 」
「 ……関係あんの!?!? 」
どうしよう。俺、昔のことなんて全然覚えてねぇよ。梨花になんか言ったっけ……。
「 梨花の好きな物って何? 」
「 おしゃれ?とかめいく?とかと…… 」
梨花の好きな物はよく分かる。だから俺は記憶を辿りながら来夏の問に答えることができた。
「 ……あ。あとクマのぬいぐるみとかずっと好きだなぁ。昔から持ってるぬいぐるみと今も一緒に寝てるみたいだし…… 」
「 それだよ 」
「 ……それ? 」
梨花が言いたかったことはクマのぬいぐるみが関わってるってことか?
イマイチ話が見えてこない。どうして急にクマのぬいぐるみなんて出てくるんだ?
「 ほんとになんも覚えてないんだね……あんたから約束したことなのに 」
「 俺から!? 」
え、昔ぬいぐるみに関することで何か約束とかしてたっけ……。
……全く思い出せねぇ!!!!勉強以外の事、俺あんま覚えてねぇんだよー!!
「 ……どうして梨花がずっとクマのぬいぐるみを大切にしてるかわかってるの? 」
「 それは分かってるよ。亡くなった専属のメイドさんから貰ったもので…… 」
「 それもあるけど今回は違うよ 」
頬杖をついて、呆れた顔をしながら来夏は俺の顔を見る。
……全然わかんねぇ。梨花はメイドさん以外の理由でクマのぬいぐるみを大切にしてるのには訳があるって事か?
「 女の子は昔のことをよく覚えてるもんなの。気になるなら後は梨花に直接聞いたらどう? 」
「 お前は何がしたかったんだよ…… 」
「 自分で思い出してもらおうと思ったからわざわざヒントを与えに来ただけ。意味なかったけど 」
「 なっ!! 」
……梨花に聞くのも申し訳なくなってきた。ここまで来たなら自分で答えを見つけたい。
クマのぬいぐるみ手クマのぬいぐるみ……。
「 ……!! 」
『 ___おっきくなったら、りおもりんかとおそろいのくまさんをかう!!それでいっしょにあそぼ!! 』
「 ……思い出した? 」
「 バッチリな…… 」
そうだ。俺、梨花とお揃いのぬいぐるみを買うって約束してたな……。でもあれ、どこで売ってるんだ……。来夏ならわかるかな……。
「 梨花が持ってるクマのぬいぐるみってどこに売ってんの? 」
「 それは梨花に聞きなよ。私も流石にわかんない 」
「 ……分かった 」
「 ……ありがとな、来夏 」
「 貸1ね 」
「 やっぱなし 」
「 はぁ!? 」
来夏の不満そうな表情がチラリと見えたけど、俺は気にせず梨花の部屋に向かった。
コンコンコン
そして、梨花の部屋をノックする。
「 ……どうしたの? 」
「 あのさ、梨花 」
梨花は不思議そうに首を傾げながら、自分の腕の中にいるクマのぬいぐるみを撫でていた。そんな梨花も凄く可愛い。……でも、今はそんなことを考えるためにここに来た訳じゃない。
「 ……昔の約束 」
「 ……!! 」
「 明日、暇? 」
「 すっごく暇!!てか普通に予定があっても意地でも暇にする!! 」
「 俺のぬいぐるみ探し、手伝ってくれる? 」
「 勿論! 」
一気に食いついた……。やっぱり梨花はこのことを俺に言いたかったんだな。
「 なら朝から行こうよ。一緒にそのままどっかでお昼ご飯とか食べたいし…… 」
「 てか、莉央のこと独り占めにしたいし…… 」
「 はいはい。元からそう提案するつもりだったから安心しろ 」
「 なら早く言ってよ!!私が恥ずかしくなるだけじゃん!! 」
一気に梨花はばっと顔を赤くする。そんな所も可愛いなぁ……。なんてことを思いながら俺は梨花の頭を優しく撫でた。
「 ちょ、莉央…… 」
「 別にいいだろー? 」
「 じゃ、また明日 」
「 ……また明日…… 」
頭を撫でたら、梨花は更に顔を赤くして顔をぬいぐるみで隠してしまった。
……ほんと、ずるいくらいに可愛いなぁ。梨花は。
なんて思いながら俺は静かに梨花の部屋を出ていった。
- 翌日 -
「 莉央っ。早く行くよっ 」
「 わかった!!わかったから引っ張んな!! 」
いつにも増して気合いが入ってる梨花は、いつもと違う雰囲気が漂っていた。
「 ……なんか梨花、変わった? 」
「 どこが変わったと思う? 」
「 えっと…… 」
梨花の質問に、俺は少し頭を悩ませてしまった。いつもと違うところは明確にあるはずなのに、なかなか分からない。……難しい……。
……あ。
「 髪の毛、結んでるんだ 」
「 もー。今更? 」
いつもは髪を下ろしてるだけなのに、今日の梨花は1つ結びだ。だから雰囲気が違って見えたんだな……。
「 他は? 」
「 え、他!?えっと…… 」
そんなに違うところがあんの!?難しいって!!
「 伊達だけどメガネをしてたのになぁ 」
「 メガネか……!!ごめん、梨花…… 」
「 いいよ。あの莉央が髪の毛に気がついてくれただけで凄く嬉しいし 」
「 ま、今日はメイクも変えてるんだけどー 」
「 わかんないって!! 」
「 知ってる 」
梨花は俺の反応が面白いのか、楽しそうにニコニコと笑い続けていた。
「 それじゃ行こっか。ぬいぐるみを探しに 」
「 おう 」
そのまま梨花は俺の手を取って先導してくれた。本当に何も分からないからかなり助かるなあ……。
- 数十分後 -
「 ここ 」
「 なんか入るの恥ずかしくなってきたな…… 」
数十分歩き続けてついたのは、ぬいぐるみ専門店。店内にいるのも女性の人達が多い。
……場違い感半端ねぇな……。
「 私がいるから大丈夫でしょ。ほら、行こうよ 」
「 だな…… 」
でも梨花の約束を破るのはもっと嫌だ。
だから俺は思い切って、店の中に入ることにした。
どこを見回してもぬいぐるみだらけ。全部おなじに見える。でも梨花は迷うことなく俺の手を引き続けてくれた。
「 ここがクマのコーナーだよ 」
「 クマだけでも沢山あるんだな 」
目の前に置いてあった茶色のぬいぐるみを手に取りながら、俺はそう呟いた。そして何となく値札を確認してみる。
「 ……1万……?? 」
ただのぬいぐるみなのに1万円ってなんなんだよ。おかしいだろこれ。
「 どうかしたの? 」
そういえば梨花はお嬢様だったな……。梨花からしたら安いんだろうな、これ……。
「 なんでも。俺には何が似合うかなあって 」
ここでお金の話題を出して気まずい雰囲気には絶対したくない。だから俺は自分の財布に謝りながら、ぬいぐるみを買うことを決意した。
「 これとか? 」
梨花が手に取ったのは薄いピンク色のクマのぬいぐるみだった。赤い服を来てて、耳の中にはハートが付いてる。そのデザインに、俺は見覚えがあった。
「 これ……梨花が昨日持ってたやつの色違いだよな? 」
「 ……うん。せっかくなら色違いにしたいなって思って……他の色は売り切れちゃってるし…… 」
梨花からぬいぐるみを受け取って、値札を確認する。
……7000円か。高いけど、さっきに比べれば大したことは無い。
「 じゃあこれにする 」
「 ……!!いいのっ!? 」
「 いいの 」
梨花はぱぁっと明るい顔になって、嬉しそうに笑った。だから俺はまた梨花の頭を撫でてしまう。
「 ちょっ……恥ずかしいからやるならせめて家か人目のつかないところで……!! 」
「 えー? 」
梨花の反応を軽く楽しんでから、俺はぬいぐるみを購入するのだった。
「 ……久しぶりにぬいぐるみ遊びとかしちゃう? 」
「 もう15だよ!?……恥ずかしくない? 」
店から出てご飯屋を探しながら、俺は梨花にそんな提案をしてみた。
昔は梨花のぬいぐるみを借りてやってたけど、せっかくなら自分のぬいぐるみで遊んでみたいんだよな……。
「 ……1回だけだよ? 」
かなり悩んでから、梨花は俺の提案を受け入れてくれた。それが嬉しくて、俺は自分でも分かるくらい嬉しい表情をしてしまう。
「 ……莉央には別で犬のぬいぐるみも買ってもらえば良かったかな 」
「 なんでそうなんの!? 」
このぬいぐるみだけで7000円なのに……プラスで犬のぬいぐるみは俺の財布が泣く。絶対泣く。
和真達と遊ぶお金とかも入ってるし……ここで使いすぎるのもあれだし……。
「 だって莉央、すごく犬っぽいし…… 」
「 犬っぽいぃ!?!? 」
そんなこと無いだろ……ないよな……?
「 さ、早くお昼ご飯食べに行こ。なんかいいお店あるかなあ 」
「 ちょ、なんで犬っぽいのか教えてよ!! 」
「 なんでだろうねー? 」
「 梨花ー!! 」
- 数時間後 -
「 ……ほんとにやるの? 」
「 やるの 」
あれから数時間経って、俺と梨花は寮の梨花の部屋に戻ってきた。
梨花は恥ずかしそうにぬいぐるみを抱えてベッドに座り込む。
「 1日くらいいいだろー? 」
「 これからよろしくなー!梨花ちゃんのお友達のクマさん! 」
「 莉央!! 」
「 ……よろしくね…… 」
俺が昔みたいに梨花が持つぬいぐるみに話しかけると、梨花は渋々ぬいぐるみを動かして乗ってくれた。それが嬉しくて、思わず口角を上げてしまう。
「 俺の事、どう思うー? 」
「 ……生意気そうだね 」
「 生意気!? 」
その言葉に、俺は思わず梨花の方を見てしまった。すると梨花はイタズラな笑顔を見せる。……わざとだな、こいつ……。
「 クマさんのことはどう思う? 」
「 クマさんのことかぁ 」
なにか仕返しをしたいな……。
だから俺は少しだけ梨花のことを見た。
そういえば今日、梨花の変化には気がついたけど褒めたりとかはしてなかったな……。
……そうだ!!
「 梨花の次に可愛いんじゃないかなー! 」
「 そうだクマさん。今日の梨花、凄く可愛かったんだぞー!髪を結んでメガネまで掛けちゃって…… 」
「 莉央っ!?!?!? 」
あ、一気に梨花の顔が赤くなった。
仕返し成功ー!!
「 俺はクマさんに本当のことを言ってるだけだけど? 」
「 だとしても急に言われたら心臓に悪い!! 」
「 ごめんごめん 」
今まであんまり可愛いとか言えてなかったし、これを機に思ったらすぐ梨花に教えてあげようかな……。
そう考えながら、俺と梨花は小さい頃に戻ったかのように一緒にぬいぐるみで遊ぶのだった。
「 ……イチャイチャしてるなぁ 」
「 面白いとこ見ちゃったね 」
このことを来夏と和真に見られていたことを知らなかった俺たちは、次の日めちゃくちゃ2人にいじられて大変な思いをしたのは、また別のお話である。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。