三人で動くようになってから、わずかに生存確率が上がった。
岩本が前を見て、深澤が隙を突き、阿部が地形を読む。
それでも
奈落は、甘くない。
阿部が低く言った。
視線の先、地面に黒い影がいくつも落ちている。
上だ。
岩本が顔を上げた瞬間、巨大な影が降ってきた。
翼。
空を飛ぶ魔物。
逃げ場がない。
三人が別方向に飛ぶ。
直後、地面が抉れた。
衝撃で岩本の体が宙に浮く。
背中から叩きつけられ、息が止まる。
視界の端で、深澤が吹き飛ばされるのが見えた。
阿部も、岩に叩きつけられて動かない。
立てない。
魔物がゆっくりと歩いてくる。
まるで、おもちゃを見つけたみたいに。
岩本が剣を握ろうとした、その時。
冷たい空気が流れた。
一瞬で、温度が下がる。
そして、目の前の魔物の足元が__凍りついた。
阿部が顔を上げる。
白い息。
地面を這う氷。
魔物の体を、みるみるうちに凍結させていく。
しかし、すぐ打ち砕かれた。
粉々に。
3人は何が起きたのかも分からず、自分の下に伸びた氷の滑り台によって1箇所に集められた
三人の視線が、同時に一点へ向く。
そこに立っていたのは、銀髪の男だった。
ぼさっとした髪、気怠そうな目。
片手をこちらに向けたまま、ため息をつく。
渡辺はゆっくり3人を見回す
三人の傷を見て、眉をひそめた。
地面に手をつく。
瞬く間に、氷が広がった。
冷気が三人の体を包む。
次の瞬間
痛みが、消えた。
折れていた骨が戻り、裂けた皮膚が塞がる。
深澤が目を見開く。
さらっと言う渡辺に、阿部が呆れた顔をする。
渡辺は肩をすくめる。
3人の賞賛に照れる渡辺。
奈落の地獄の中で、初めて安心できる言葉だった。
それと同時に魔物は咆哮をあげる
その言葉を合図に一斉に走りだした。渡辺は氷の壁を作り、岩本は深澤、阿部を抱え走り続けた。
あたりは静寂に包まれた。
どのくらい走ったのかは分からない。
ようやく魔物から離れた地で四人は顔を見合わせる。
役立たずと呼ばれた人族が、奈落で再会していく。
まだ希望はない。
でも
確実に、生き延びる力が増えている。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!