深澤は咳き込みながら体を起こす
短い返事。だが、それだけで十分だった。
目の前の魔物は、まだこちらを見下ろしている。
傷はほとんど入っていない。
二人とも、もう立てない。
深澤が笑う。
その時だった。
魔物の横腹が、突然“爆ぜた”。
「ぐぉぉぅうぅおぉぉぉ!!」
轟音とともに、肉片が飛び散る。
魔物が咆哮を上げ、後退する。
岩本と深澤は同時に顔を上げた。
遠くの岩場。
そこに、人影が立っている。
手をかざし、何かを唱えている。
次の瞬間、あたりは霧に包まれた。
深澤が間の抜けた声を出す。
ありえない威力だった。
人族の魔法じゃない。
その人影が、こちらへ駆け寄ってくる。
息を切らし、眼鏡をずらしながら。
岩本は目を見開いた。
この顔も、覚えている。
理屈っぽくて、いつも本を読んでいた少年。
阿部は苦笑しながら、倒れた二人を見る。
そして魔物へ視線を向け、真顔になった。
さらっと言う。
岩本と深澤は顔を見合わせた。
こいつ、奈落で観察なんてしてたのか。
魔物が再び立ち上がる。
阿部が素早く詠唱する。
地面がひび割れ、魔物の足元が崩れる。
岩本は深澤を担ぎ上げる。
三人で、必死に走る。
背後で魔物の咆哮が響く。
追ってきている。
岩場を抜け、崖の影に滑り込む。
しばらくして、足音が遠ざかっていった。
静寂の中
三人の荒い呼吸だけが響く。
阿部がその場に座り込む。
深澤が笑う。
軽く笑って阿部は答える
岩本は息を整えながら呟いた。
三人は顔を見合わせる。
希望なんて、ない。
でも
一人じゃなくなった。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!