第3話

第1話 奈落 - 二人目 狂気のアサシンブレイド
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2026/02/11 23:57 更新
奈落は、音が重い。

遠くで何かが動くだけで、地面が低く唸る。
その振動が、岩本照の背中に直接伝わっていた。

岩陰に身を押し込み、呼吸を止める。

喉が焼ける。視界が霞む。

それでも、動けない。

動いたら、死ぬ。

ここに落とされてから、何日経ったのか分からない。
水も食料も尽きかけ、剣の刃は欠け、腕は痺れている。

Lvは上がっているはずだった。

それでも、この場所では意味がない。

遠くを、巨大な影が横切る。

あれに見つかったら終わりだ。

岩本は目を閉じ、気配が過ぎるのを待った。

その時。

――足音。

人の足音。

奈落で、ありえない音。

反射的に剣を構え、振り向く。

そこにいたのは、血まみれの男だった。

ふらつきながら、それでも笑っている。
深澤辰哉
……うわ、マジか。人いた

岩本は目を見開く。

見覚えがある。

思い出せない。でも、知っている顔。

男も気づいたように、目を細めた。
深澤辰哉
どっかで会ったよね、俺たち


記憶の奥が、ざわつく。

同じ村。子供の頃。ぼんやりとした風景。

名前が、出ない。

その瞬間。

背後の岩が、爆ぜた。

咆哮が、鳴り響く

振り向くまでもない。

魔物。

それも、奈落の主級。

岩本の喉が凍る。

男が、短剣を構えた。
深澤辰哉
名前思い出すの、あとにしよっか
岩本照
……生きてたらな

二人は同時に駆けた。

勝てるはずがない。

それでも、止まれば死ぬ。

岩本が正面から斬りかかる。
男が死角へ滑り込む。

刃は通らない。まるで岩を叩いているようだ。

魔物の一撃。

岩本の体が吹き飛ぶ。

地面を転がり、肺の空気が抜ける。

視界の端で、男が魔物の背に飛び乗った。
深澤辰哉
うおおおお!!
短剣を目に突き立てる。

魔物が暴れ、男が宙を舞う。

地面に叩きつけられ、動かない。

岩本は、這いながら立ち上がろうとした。

足が言うことを聞かない。

魔物が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

終わった。

その時、倒れていた男が、かすれた声を出した。

深澤辰哉
……なあ

岩本を見る。

血だらけの顔で、笑っている。
深澤辰哉
照だろ?俺たち、同郷だよな
心臓が跳ねる。

その言葉で、記憶が繋がる。
岩本照
ふっか…?
深澤辰哉
はは、やっと思い出した


魔物の影が、二人を覆う。
岩本照
最悪な再会だな
深澤辰哉
…ほんとだよ


二人は、動けないまま、魔物を見上げた。

奈落で、初めて出会ったのは。

かつて同じ村にいた、もう一人の“役立たず”だった。

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