九人で進む奈落。
生き延びる術は揃った。
連携も、呼吸も、完璧に近い。
それでも
この日だけは、違った。
佐久間の顔色が、変わる。
向井が空間を見る。
阿部がつぶやく
全員が息を飲むのがわかる。
地面が、唸る。
前後左右、そして上。
逃げ道が、ない。
姿を現したのは、今まで見たどの魔物とも違う存在だった。
大きさも、圧も、桁違い。
一体じゃない。
四体。
奈落の頂点。
深澤が笑う。
誰も否定しない。
岩本が前に出る。
目黒が横に並ぶ。
渡辺が全員に触れる準備をする。
宮舘の炎が、静かに灯る。
ラウールが構える。
向井が空間を歪める。
佐久間が、息を飲む。
阿部が、魔法陣を展開する。
それでも…
勝ち筋が、ない。
戦いが始まる。
岩本と目黒が受け止める。
深澤が隙を突く。
宮舘が足止めする。
ラウールが目を撃ち抜く。
効かない。
渡辺の治癒が追いつかない。
向井の幻影も破られる。
佐久間の“敵にならない”理屈が、通じない。
阿部が叫ぶ。
ドゴンッッッ!!
一撃。
主級の咆哮で、地面が割れる。
岩本が最前線で踏ん張るけど、腕が震えてる。
目黒も、もうヒビだらけ。
渡辺の回復は追いつかない。
ラウールの弾も通らない。
宮舘の炎はかき消される。
向井の幻影も見破られた。
佐久間が魔物を逸らそうとして、吹き飛ばされる。
阿部が必死にルートを探すけど、もう逃げ場がない。
目黒と岩本が吹き飛ぶ。
深澤が倒れる。
宮舘の炎が消える。
ラウールの銃が弾かれる。
渡辺が血を吐く。
阿部が立てない。
向井が、動かない。
佐久間が、震える。
九人全員、地面に倒れた。
魔物が、ゆっくり近づく。
終わり。
その瞬間
奈落の空が、割れた。
轟音と共に光が、落ちてくる。
まるで、星が堕ちるみたいに。
四体の魔物の中心、9人の前に何かが着地した。
衝撃が、奈落全体を揺らす。
土煙が晴れる。
そこに、小柄な少女が立っていた。
長い髪が揺れる。
奈落の瘴気が、彼女だけを避けている。
四体の奈落の主は、動かない。
少女は、九人を見た。
優しい目だった。
声は小さいのに、はっきり届く。
岩本が、かすれた声で言う。
深澤が笑う。
少女は微笑み、手を横に振る。
まるで、虫を払い除けるかのように。
次の瞬間
四体の奈落の主が、消えた。
攻撃じゃない、消滅。
痕跡すら、残らない。
九人は、理解できなかった。
ただ一つだけ、分かる。
この少女は――
奈落より、"強い"。
9人全員が息を飲む。
少女は振り返って言った。
その声が、奈落で初めて“希望”になった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。