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2018/08/10

第7話

第一章 信じたくて信じられなくて-4
ただただ教室にいたくなくて、目的もなく早足で廊下を歩く。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(うざい、うざい、うざい。何なんだよあいつ。何でいつも俺に構うんだ。クラスで人気だからって、俺も慕ってるとでも思ってんのかよ)
つかさを巻き込んでまで、疾斗をイジって楽しいのだろうか。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(俺も、何で見ちまったんだよ。──何で、こっち見たんだろ……)
つかさも、疾斗を見て呆れただろうか。そんなことを気にした自分をあざ笑う。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(別に嫌われたところで、今と何も変わんねえだろ)
これ以上、つかさとの距離が縮むはずもない。その距離を変える気も、疾斗にはない。
誰かを信じたり、関わったりすることがわからない。わからなくなった。
以前──護と仲がよかった頃は、疾斗ももっと人と上手く付き合えていた気がする。人当たりのいい護のそばにいたから、疾斗も他人と上手く関われていたのだろうか。
これでは、護がいないと何もできないみたいだ。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(ちがう……護がいないからじゃない。あいつが、俺から離れてったから、わからなくなった……)
誰より信頼していた親友が、信じられなくなった。幼なじみさえ離れていってしまうのに、そんな自分が他人とどう関わっていいかわからなくなった。
信じたくて……信じられなくて。
傷ついたり、自己嫌悪したりしてしまうなら、最初から人との関わりなんてない方が楽。
いつからか、疾斗はそんなふうに考え、誰とも関わろうとしなくなっていた。

自然と足が止まっていて、角を曲がってくる人影に、疾斗は気付かなかった。
うつむいていた疾斗に気付き、その人物は咄嗟に足を止めたようだ。
土方悠弦
土方悠弦
お……っと。すまない
嬉野疾斗
嬉野疾斗
あ、いや、こっちこそ……すみません
慌てて顔を上げてから、先輩だと気付いて敬語になる。
交友関係がほぼない疾斗でも知っている有名人だった。

眼鏡の奥から、切れ長で怜悧な目が疾斗を見下ろしていた。無表情でいると整った顔も相まって神経質そうに見えるが、彼が人に向ける表情は常に優しい。
艶やかな黒髪に、すらりと長い手足と長身。モデルにでもなれそうな整った容姿。
土方悠弦。
全国模試でも上位に入るほどの秀才であり、何をしてもトップレベルの結果を叩き出す。しかしそれを鼻にかけることもない人柄が彼にはあった。先生達が手を焼くような生徒も、彼の言うことなら聞くという。人を惹きつけるカリスマ性に溢れ、一年の時から生徒会長として生徒をまとめているらしい。
彼のうわさを聞く度に、こんなに完璧な人間がいるのかと、つい疑ってしまう。

悠弦の優しさは、他人の疾斗にさえも例外ではないらしい。
土方悠弦
土方悠弦
俺もよそ見してたから。ごめんね、嬉野くん
嬉野疾斗
嬉野疾斗
いえ……って、え? 何で俺の名前……
土方悠弦
土方悠弦
嬉野疾斗くん、だろ? 知ってるよ。──護の幼なじみだよね?
その言葉は悠弦の背後に向けられていた。悠弦の後からやってきた人物と目が合う。
染めたわけではない、昔から色素の薄い髪。
悠弦に向けられていた温厚な微笑みが、疾斗を見て消える。
正道護
正道護
疾斗……
髪と同じく色素の薄い、淡い色の瞳。幼い頃は女の子に間違えられたぐらいに端整な顔立ちが、疾斗を見つめていた。彼と顔を合わすことすら久しぶりだった。

物心つく頃から一緒にいた幼なじみ、正道護。
親友だったのは、一年ほど前までの話。
ケンカらしいケンカをしたわけではない。ただ、護は疾斗から離れていった。
護はそれまで疾斗と同じようにゲームが好きだった。が、ある時から護はぱったりとゲームをやめた。代わりに幼い頃から続けていた剣道、進学のための勉強に没頭し、生徒会にも入って、実生活を充実させはじめた。
そんな護の様子は、疾斗から見れば少し異常だった。何かから、必死で目を逸らしているような、忘れようとしているような。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
お前、何かあったのかよ?
思い切ってそう尋ねたこともあったが、護は笑って首を振った。
正道護
正道護
何もないよ。ただ、ゲームばっかりしてちゃいけないって気付いただけだよ
違う。
それだけじゃないはずなのに、どうしてかそれ以上、疾斗は護に踏みこめなかった。
疾斗にもゲームをやめるよう諭してきた時期もあったが、それも諦めたのか、次第に護との会話はなくなり、距離も離れていって、今ではすれ違ってもあいさつさえしなくなっていた。
きっと、疾斗と護は生きる世界が違ったんだ。二人とも子どもだったから、気が合ってただけ。