ただただ教室にいたくなくて、目的もなく早足で廊下を歩く。
つかさを巻き込んでまで、疾斗をイジって楽しいのだろうか。
つかさも、疾斗を見て呆れただろうか。そんなことを気にした自分をあざ笑う。
これ以上、つかさとの距離が縮むはずもない。その距離を変える気も、疾斗にはない。
誰かを信じたり、関わったりすることがわからない。わからなくなった。
以前──護と仲がよかった頃は、疾斗ももっと人と上手く付き合えていた気がする。人当たりのいい護のそばにいたから、疾斗も他人と上手く関われていたのだろうか。
これでは、護がいないと何もできないみたいだ。
誰より信頼していた親友が、信じられなくなった。幼なじみさえ離れていってしまうのに、そんな自分が他人とどう関わっていいかわからなくなった。
信じたくて……信じられなくて。
傷ついたり、自己嫌悪したりしてしまうなら、最初から人との関わりなんてない方が楽。
いつからか、疾斗はそんなふうに考え、誰とも関わろうとしなくなっていた。
自然と足が止まっていて、角を曲がってくる人影に、疾斗は気付かなかった。
うつむいていた疾斗に気付き、その人物は咄嗟に足を止めたようだ。
慌てて顔を上げてから、先輩だと気付いて敬語になる。
交友関係がほぼない疾斗でも知っている有名人だった。
眼鏡の奥から、切れ長で怜悧な目が疾斗を見下ろしていた。無表情でいると整った顔も相まって神経質そうに見えるが、彼が人に向ける表情は常に優しい。
艶やかな黒髪に、すらりと長い手足と長身。モデルにでもなれそうな整った容姿。
土方悠弦。
全国模試でも上位に入るほどの秀才であり、何をしてもトップレベルの結果を叩き出す。しかしそれを鼻にかけることもない人柄が彼にはあった。先生達が手を焼くような生徒も、彼の言うことなら聞くという。人を惹きつけるカリスマ性に溢れ、一年の時から生徒会長として生徒をまとめているらしい。
彼のうわさを聞く度に、こんなに完璧な人間がいるのかと、つい疑ってしまう。
悠弦の優しさは、他人の疾斗にさえも例外ではないらしい。
その言葉は悠弦の背後に向けられていた。悠弦の後からやってきた人物と目が合う。
染めたわけではない、昔から色素の薄い髪。
悠弦に向けられていた温厚な微笑みが、疾斗を見て消える。
髪と同じく色素の薄い、淡い色の瞳。幼い頃は女の子に間違えられたぐらいに端整な顔立ちが、疾斗を見つめていた。彼と顔を合わすことすら久しぶりだった。
物心つく頃から一緒にいた幼なじみ、正道護。
親友だったのは、一年ほど前までの話。
ケンカらしいケンカをしたわけではない。ただ、護は疾斗から離れていった。
護はそれまで疾斗と同じようにゲームが好きだった。が、ある時から護はぱったりとゲームをやめた。代わりに幼い頃から続けていた剣道、進学のための勉強に没頭し、生徒会にも入って、実生活を充実させはじめた。
そんな護の様子は、疾斗から見れば少し異常だった。何かから、必死で目を逸らしているような、忘れようとしているような。
思い切ってそう尋ねたこともあったが、護は笑って首を振った。
違う。
それだけじゃないはずなのに、どうしてかそれ以上、疾斗は護に踏みこめなかった。
疾斗にもゲームをやめるよう諭してきた時期もあったが、それも諦めたのか、次第に護との会話はなくなり、距離も離れていって、今ではすれ違ってもあいさつさえしなくなっていた。
きっと、疾斗と護は生きる世界が違ったんだ。二人とも子どもだったから、気が合ってただけ。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。