「僕のこと、絶対好きにさせてみせますよ。」
「……!?」
「待っててくださいね、旭先輩。」
お気に入りの少女漫画を読む手が、そこで止まった。
早退してからすぐ、家族と使用人には自室で休むと言って昨日執事に運ばせた少女漫画の山を読む予定だったのに、どうして?
掛けていた眼鏡を取り、小さな溜め息を一つ。
いつもなら、単純に面白いと思えた筈だった。
現実の恋愛ってあんなに難しいものなんだろうか。少女漫画みたいに、甘々で幸せなものじゃないの? 自分の中の“理想の恋愛”というものが音もなく崩れ落ちていく気がした。それの代わりに脳裏には若菜の鋭い視線が浮かぶ。
恋する乙女は随分とまあ怖いもので。
ヒロインになるにはあれくらいの根気が必要なのか。
彼氏は欲しいけど、私にはあれ程一人の人に本気になることは出来なさそうだ。叶と若菜の美男美女の二人で十分釣り合いが取れるだろうし、私という邪魔者が退散したところで適当にくっついておいてほしい。
あの鈍感な叶も彼女なら断らないだろうし。そして、恋人が出来たら私にも無駄に関わってこなくなるだろうという算段。
さて、少女漫画はここまでにして司法試験の勉強でもしようか。
腰掛けていたソファから立ち上がり、勉強机へと向かおうとする。
しかし、机の上に出しっぱなしだった少女漫画が目に入り、はたと足が止まった。
事務会話以外でクラスメイトと話したのは、彼が初めてだった。
明るい笑顔と、元気な声。私の秘密を馬鹿にすることなく、守ろうとしてくれた人一倍の優しさ。
私は少しだけ、彼に絆されているのかもしれない。
不覚にも、彼が若菜と並ぶ姿を見たくないと思ってしまった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。