俺はベルンハルトの方へ走り出した。
彼は構えて俺の様子を伺っている。
俺は銃を撃つ振りをして、ベルンハルトの懐の中に潜り込む。そして、そのまま上着を引っ張った。
彼の肩に掛かっているだけのそれは、なんの抵抗もなく盗られた。上着の中には何も無い。
俺が上着を観察しているのを隙と見たのか、ベルンハルトは俺の頭を思いっきり殴りかかろうとした。
ギリギリ避けるが、こぶしは俺の肩に当たる。
そのまま仰向けになって倒れた俺に、ベルンハルトは上から乗って動きを封じた。
腰あたりに乗っかかられて身動きが取れない。
その時、目の前できらりと何かが光った。
なんだと思って見てみれば、首に金属のネックレスがかけられているではないか。
その先はタンクトップの中に隠されている。
俺は懐からナイフを取り出して彼の胸元を切り裂いた。タンクトップの中から鍵が見える。
そこか!
ベルンハルトは驚いて立ち上がり、距離を取った。
俺はすぐにピストルに持ち替えて、ベルンハルトを撃とうとした。しかし、それは叶わなかった。
ベルンハルトはすぐに此方へ駆け出し、素早く俺の腕を掴んだかと思えば、俺をぶん回して再び壁に叩きつけた。
そのまま前に倒れそうになる俺の首を掴んだかと思えば、俺は再び壁に叩きつけられる。
これ、アメリカやフランス兄ちゃんを倒した技……!
気づいた時にはもう遅かった。
ベルンハルトは何度も何度も俺を壁に勢いよく叩きつけ始めた。首が前後に激しく動かされ、壁に頭部が何度もぶつかる。
首を掴まれて息もできない……!
でも、俺は諦めないよ……!
俺はボーッとする頭で、急いでナイフを持つと、ベルンハルトの首を掴んでいる手に突き刺した。
彼の手は離れた。
俺はそのまま地面に倒れる。
頭が動かない。死ぬはずがないのに、身体中が死ぬ程痛い。苦しくて、気持ち悪い。
嫌だ……嫌だ!もうこんなの嫌だ!!
俺はナイフを持って、這うように出口の扉へと進む。逃げ出したい。早く、誰かに助けを、、
ベルンハルトに背中を踏みつけられる。
彼の全体重が掛かった足に、身動きが取れなくなってしまう。俺が少し大人しくなると、ベルンハルトは俺の横腹を足で蹴った。
俺はされるがままにベルンハルトに腹を向ける。
ベルンハルトは俺のすぐ傍にしゃがみ込んだ。
ベルンハルトは再び言った。
なんだ。なんなんだよ、お前。
俺が邪魔なんじゃないのか、鍵を奪おうとする俺を倒さなきゃいけないんじゃないのか。それなら、このまま俺をなぶり殺してしまえばいいじゃないか。
なんで、俺と戦おうとするの?
俺は泣きそうな声でベルンハルトに言った。
彼はそんな弱い俺を蔑むわけでも、責めるわけでもなく、ただじっと見下ろした。
そして、うわ言のように繰り返した。
俺はそのまま蹲る。
いっそ、そのまま殺してくれ。
弱い俺を、皆を助けられない俺を、どうか君の手で殺してくれ。お前でもいいから。
皆に見られないうちに、こっそりと。
お前にそれができないって言うんなら、、
ベルンハルトは俺の方に顔を近づける。
その様子に俺は黙る。
そしてすぐさまナイフを右手にベルンハルトの首を斬った。いや、正確には首元に掛かっているネックレスを斬った。
ベルンハルトは驚いて顔を離す。
信じられないといった様子で俺を見つめている。
俺はそんなベルンハルトの肩にナイフを突き刺して抜くと、全速力で扉に向かった。
そして部屋を出て素早く鍵を閉める。
違う。違うよ、ベルンハルト。
俺はお前らの期待を裏切ったりしない。
全部作戦だったって、気づかなかったでしょ?
でもやっぱり、俺は臆病者だよ。
お前を、君を傷つけることなんてできっこない。
バァンッ!!
鉄でできた扉が、少し出っ張った。
まさかベルンハルトは、突進でもして無理やり扉を開けようとしてるの?
俺は扉が壊れてしまった時のことが怖くなって、すぐさま駆け出した。
は、早く牢屋に、皆がいるところに……!
牢屋の前には、ルチアーノが居た。
牢屋の中の皆はまだ眠っている。
どうやら、彼が皆を監視していたようだ。
おめでとう、そう言って彼は俺を賞賛する。
その本気で凄いと感心している彼の輝いた瞳に、俺は、少し申し訳なくなってしまった。
俺は、別に勝ったわけじゃない。
卑怯な手を使って、勝負を放棄したんだ。
そして、景品を盗み出した。
彼との勝負から。
そして、自分の勇気から。
皆が聞いたら呆れるかもしれない。
やっぱり俺はヘタレで戦うことなんてできっこないんだって、そう馬鹿にされるかもしれない。
俺はそれすらも怖い臆病者……なんて言ったら、皆はどんな顔をするだろう。
俺はその言葉に救われてホッとため息をついた。
俺は、戦えない。
皆のように強くないから、傷付きたくない。
だから、誰も助けられない。そう思っていた。
けど、俺には俺の戦い方があるんだ。
ルチアーノはそう教えてくれた。
俺は皆を牢屋から出すために、鍵を差し込んだ。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!