第15話

14.「逃げるは恥だが役に立つ」
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2024/03/18 09:22 更新
俺はベルンハルトの方へ走り出した。
彼は構えて俺の様子を伺っている。
俺は銃を撃つ振りをして、ベルンハルトの懐の中に潜り込む。そして、そのまま上着を引っ張った。
彼の肩に掛かっているだけのそれは、なんの抵抗もなく盗られた。上着の中には何も無い。
俺が上着を観察しているのを隙と見たのか、ベルンハルトは俺の頭を思いっきり殴りかかろうとした。
ギリギリ避けるが、こぶしは俺の肩に当たる。
イタリア
うっ、!
そのまま仰向けになって倒れた俺に、ベルンハルトは上から乗って動きを封じた。
腰あたりに乗っかかられて身動きが取れない。
イタリア
っ、う"ぅ……!
その時、目の前できらりと何かが光った。
なんだと思って見てみれば、首に金属のネックレスがかけられているではないか。
その先はタンクトップの中に隠されている。
俺は懐からナイフを取り出して彼の胸元を切り裂いた。タンクトップの中から鍵が見える。
そこか!
ベルンハルトは驚いて立ち上がり、距離を取った。
俺はすぐにピストルに持ち替えて、ベルンハルトを撃とうとした。しかし、それは叶わなかった。
ベルンハルトはすぐに此方へ駆け出し、素早く俺の腕を掴んだかと思えば、俺をぶん回して再び壁に叩きつけた。
イタリア
ぁがッ……!
そのまま前に倒れそうになる俺の首を掴んだかと思えば、俺は再び壁に叩きつけられる。
イタリア
ぅッ、!
これ、アメリカやフランス兄ちゃんを倒した技……!
気づいた時にはもう遅かった。
ベルンハルトは何度も何度も俺を壁に勢いよく叩きつけ始めた。首が前後に激しく動かされ、壁に頭部が何度もぶつかる。
首を掴まれて息もできない……!
でも、俺は諦めないよ……!
俺はボーッとする頭で、急いでナイフを持つと、ベルンハルトの首を掴んでいる手に突き刺した。
ベルンハルト
ッ……?!
彼の手は離れた。
俺はそのまま地面に倒れる。
頭が動かない。死ぬはずがないのに、身体中が死ぬ程痛い。苦しくて、気持ち悪い。
嫌だ……嫌だ!もうこんなの嫌だ!!
俺はナイフを持って、這うように出口の扉へと進む。逃げ出したい。早く、誰かに助けを、、
イタリア
がッ……!
ベルンハルト
……逃げるな。
ベルンハルトに背中を踏みつけられる。
彼の全体重が掛かった足に、身動きが取れなくなってしまう。俺が少し大人しくなると、ベルンハルトは俺の横腹を足で蹴った。
イタリア
うっ、、
俺はされるがままにベルンハルトに腹を向ける。
ベルンハルトは俺のすぐ傍にしゃがみ込んだ。
ベルンハルト
逃げるな、フェリシアーノ。
ベルンハルトは再び言った。
なんだ。なんなんだよ、お前。
俺が邪魔なんじゃないのか、鍵を奪おうとする俺を倒さなきゃいけないんじゃないのか。それなら、このまま俺をなぶり殺してしまえばいいじゃないか。
なんで、俺と戦おうとするの?
イタリア
……無理だよ。
俺には無理なんだ。
イタリア
……皆みたいに強くない。
それに、凄く怖いんだ。
イタリア
君を傷つけたくない。
自分も、傷付きたくない。
イタリア
……わかってくれよ。
俺は泣きそうな声でベルンハルトに言った。
彼はそんな弱い俺を蔑むわけでも、責めるわけでもなく、ただじっと見下ろした。
そして、うわ言のように繰り返した。
ベルンハルト
……逃げるな、フェリシアーノ。
イタリア
……嫌だよ、ベルンハルト。
ベルンハルト
ダメだ。
俺と戦え。
イタリア
嫌だ!
俺はそのまま蹲る。
いっそ、そのまま殺してくれ。
弱い俺を、皆を助けられない俺を、どうか君の手で殺してくれ。お前でもいいから。
皆に見られないうちに、こっそりと。
お前にそれができないって言うんなら、、
ベルンハルト
……フェリシアーノ。
ベルンハルト
俺はお前と戦う。
ずっと、その気だ。
ベルンハルト
お前はその期待を裏切るのか?
ベルンハルトは俺の方に顔を近づける。
その様子に俺は黙る。
そしてすぐさまナイフを右手にベルンハルトの首を斬った。いや、正確には首元に掛かっているネックレスを斬った。
ベルンハルトは驚いて顔を離す。
信じられないといった様子で俺を見つめている。
俺はそんなベルンハルトの肩にナイフを突き刺して抜くと、全速力で扉に向かった。
そして部屋を出て素早く鍵を閉める。
イタリア
……ッ、はぁ、はぁ……
違う。違うよ、ベルンハルト。
俺はお前らの期待を裏切ったりしない。
全部作戦だったって、気づかなかったでしょ?
でもやっぱり、俺は臆病者だよ。
お前を、君を傷つけることなんてできっこない。
バァンッ!!
イタリア
ひッ……?!
鉄でできた扉が、少し出っ張った。
まさかベルンハルトは、突進でもして無理やり扉を開けようとしてるの?
俺は扉が壊れてしまった時のことが怖くなって、すぐさま駆け出した。
は、早く牢屋に、皆がいるところに……!
イタリア
……!
ルチアーノ・ヴァルガス
……急ぎの用事かな?
牢屋の前には、ルチアーノが居た。
牢屋の中の皆はまだ眠っている。
どうやら、彼が皆を監視していたようだ。
ルチアーノ・ヴァルガス
……!その鍵、、
イタリア
あ、俺、、
ルチアーノ・ヴァルガス
……ベルンハルトに、勝ったんだね。
やっぱり、勝つと思ったよ。
おめでとう、そう言って彼は俺を賞賛する。
その本気で凄いと感心している彼の輝いた瞳に、俺は、少し申し訳なくなってしまった。
俺は、別に勝ったわけじゃない。
卑怯な手を使って、勝負を放棄したんだ。
そして、景品を盗み出した。
イタリア
お、俺は別に、勝ったわけじゃないよ。
ルチアーノ・ヴァルガス
……?
イタリア
ベルンハルトを倒さずに、鍵だけ盗んで、走って逃げてきたんだ。
イタリア
彼、凄く怖かった。
俺は敵わない、そう思って、、
イタリア
……逃げてきたんだよ。
彼との勝負から。
そして、自分の勇気から。
皆が聞いたら呆れるかもしれない。
やっぱり俺はヘタレで戦うことなんてできっこないんだって、そう馬鹿にされるかもしれない。
俺はそれすらも怖い臆病者……なんて言ったら、皆はどんな顔をするだろう。
ルチアーノ・ヴァルガス
……逃げてないよ。
イタリア
……え?
ルチアーノ・ヴァルガス
確かに、君は勝負から、ベルンハルトから逃げたのかもしれない。
ルチアーノ・ヴァルガス
でも、お前自身からは逃げてない。
イタリア
……どういう、、
ルチアーノ・ヴァルガス
お前は、仲間の救助を最優先に行動しただけだ。無駄死にして皆が死ぬより、よっぽどマシな結末だった。
イタリア
……!
ルチアーノ・ヴァルガス
……お前は、逃げて正解だったんだよ。
フェリシアーノ。
ルチアーノ・ヴァルガス
よく、戦ったな。
イタリア
……そ、そっか。そうだったんだ。
俺はその言葉に救われてホッとため息をついた。
俺は、戦えない。
皆のように強くないから、傷付きたくない。
だから、誰も助けられない。そう思っていた。
けど、俺には俺の戦い方があるんだ。
ルチアーノはそう教えてくれた。
俺は皆を牢屋から出すために、鍵を差し込んだ。

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