第42話

思い出
222
2022/05/08 04:17
『…』




寝れない。

北さんが私を抱き締めて、私はあの後固まってしまった。

固まった私をお兄ちゃん2人は心配してくれた。

何をどう話せばいいのか分からなかった。

なんで抱き締めたんだろう。





『……』





お母さんに渡されたスマホ。

メッセージアプリを開くと、1番上にお兄ちゃん達とのグループトーク

2番目に治、3番目に侑。

今まで打ってきたトークを見返すと、何やら面白いものばかり。

トーク上で喧嘩したり、お母さんに怒られたり。






『……早く戻りたいな』






皆のことを早く思い出したい。

そして、身体を動かしたい。

妙に私にはずっと生き甲斐として、何かを続けてきた感覚がある。

その感覚が、"身体の動かしたい"という変な言葉になる。

双子の兄は、私はバレーをしていたと言っていた。

変なの。






「あなたー」

『あ…お母さん…?』

「なんやあなたにお母さんなんて呼ばれるんは、変な感じやなぁ」

『ごめんなさい…』

「ううん。謝らんでえぇよ」

『あの…私、ちゃんと戻る…かな?』

「…うん。戻る」

『…』

「自分を信じるんや。あなたはずっと自分の強さを信じとった。そう簡単に折れる子やないって知っとる」

『でも今の私は…強い私じゃない…』

「…」

『…今の私は、別人』

「……そう思うなら、双子の兄ちゃんらを頼りぃ」

『侑と治…?』

「おん。あの2人ならあなたを命懸けで守ってくれる」

『…分かった』

「ん。そろそろ面会時間が終わりやで私らは帰るわ。明日はお父さんも仕事やでこれやんけど、ツムとサムが来るでな」

『ツム…?サム?』

「2人のあだ名や。双子ー、そろそろお別れや」

「「あなたー!」」

『わっ…!』

「また明日来るで、待っといてな」

「何かあったら、すぐに誰かに言うんやで」

『ありがとう』

「おん!」

「ほなな。」

『あのっ…』

「ん?」

『……明日来た時、私がバレーをしていた時のことを教えてくれないかな…?』

「「!…」」

『知りたいの』

「…えぇよ」

「アルバムとか持ってきたるわ!」

『うん…!』













翌日。





「宮さん、おはようございます」

『看護師さん…』

「よく寝れました?」

『…全く』

「…ちゃんと寝やんとですよ。と言いたいとこですけど、記憶無くして不安ですよね」

『はい…』

「あ、そろそろお兄さん達が来ますよ」

『え…?』

「毎日朝早くに見舞いに来れるよう、面会開始の時間を聞いてくるんです」

『…』

「大切にされとるんですねぇ」

『そうみたいです』

「今日の面会時間は9時からですから、もう少しで来ると思いますよ」

『ありがとうございます』

「はい、朝ご飯です。」

『美味しそう……病院のご飯ってあんまり美味しくないイメージだってお兄ちゃん達が言ってたんですけど』

「今は美味しくしてあるんでね」

『ありがとうございます』

「それじゃあ」




看護師さんは、病室を出て行った。

ご飯に手をつけると結構美味しかった。




『……ちょっと寒いな』




壁に飾ってあるカレンダーを見ると、11月だった。

掛け布団を肩まで掛けて、寒さを凌ごうとした。

私は宮あなた。それは分かった。

けど、今の私は誰なんだろう。

どんな人なんだろう。




「あなたー!」

「来たでー!」

『お兄ちゃん…!』




私のお兄ちゃんであろう人達。

確かに私の顔と瓜二つだし、兄妹みたいだけど

私には実感がない。




「朝ご飯食べたか?」

『うん。美味しかった』

「えぇなぁ、食べたかった」

『…あれ?お兄ちゃん達同じ服着てる』

「これは制服や」

「今から学校やでな。学校行く前に病院来てん」

『忙しいのに…』

「俺らにとっては学校より可愛い妹や!な、サム!」

「おん!」

「あ、ほら。アルバムや」

「持ってきたったで」




お兄ちゃん達が持ってきてくれたアルバムには、私の小さい頃の写真や

大会で優勝した時などの写真があった。

私が生まれた頃の写真、お兄ちゃん達と3人で公園に行った写真。

雨の中ずぶ濡れで帰ってきた写真、大会で優勝して3人で大泣きしている写真。

3人で同じベッドで寝ている写真。

見ていると、自然と口角を上げていた。




『…仲良いんだね』

「仲良しやな」

「周りの奴らはシスコンやって言うとったけど、俺らそんな感覚ないんよなぁ」

『いやだいぶシスコンだけど…』




お兄ちゃん達の頭の中にある宮あなたは、私じゃない。

この思い出達も、私じゃない。

それが辛い。




「「…」」

『……はぁ…』

「あなたはあなたやで。」

『!…』

「誰でもない。あなたなんやで」

「そうや。」

『…ありがとう。』




私のお兄ちゃん達は、すごく優しい人達。

早く戻りたいなぁ。







プリ小説オーディオドラマ