第23話

すべては俺のためだった
13
2023/07/28 14:08
昔、俺の周りを取り巻くアイツに言った。


「歌い手、向いてないよ。」


正直言ってアイツはギャグセンスがないし、

声だって全然良くない。


性格も悪くて、
推せるところなんてなにひとつなかった。



最後にひとつ、こう付け足した。


「お前みたいな奴が死んでも、
 世界は何にも変わらない」




本当は、怖かったんだ。


アイツみたいな奴がネットに出て、
叩かれたりするのが。


だからわざときつい物言いをして、

アイツを諦めさせようと思ったのに…
アイツは努力し続けた。


アイツは格段に面白くなっており、

声だってずっと聞いていたいくらい良くなった。


性格は…良くなってるのかは知らねぇが
俺よかいい性格はしてるだろう


いつしかアイツは、俺の推しになっていった。
「みんな、来てくれてありがとう〜!!」


アイツの一言で沸き立つ会場。



今アイツは、ステージ上で輝いている。


アイツには到底できまいと思っていたものが、

アイツの努力によって成し遂げられている。


その事実に震えて、取り落としそうになる

アイツ色のペンライトを握り直す。




…もしかしたら俺は、アイツがこうやって

ステージ上で輝いてる姿を
見たかったのかもしれない。



一瞬だけ、アイツと目が合う。


流れるように向けられた目線とウィンクを、

俺は一生忘れないと誓った。
アイツの初ライブから1ヶ月と経たない頃。


アイツは、家で自殺した。


原因はわからず、

意味不明な遺書が残されていたと言う。
    いままでの努力は、

      全部彼のため



    ねぇ?


       僕みたいな奴が死んでも、

     世界は本当に何も変わらなかった?



       こっちに来て、教えてよ




    僕が死んだ世界は、

    本当に何も変わってないのか。
ネット記事を読む手が震えた。









そうだ。




そうだよ、アイツにあいに行かなきゃ








逢って、お前がいない世界は


無色の世界だって教えなきゃ










近くに転がっていた包丁を手に取る。



躊躇わず、自身の喉に刺した。
「…本当に来たの?」


「あらら、喉刺しちゃったの…?
 きみの声が聞けないじゃん」



「えっ? 何? 僕のいない世界は無色?」

「僕のいない世界は…変わった?」



「…!!」


「………………ありがとう」





「死んだ意味があったよ……!!!!」

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