思わずよろめくと、肩を支えてくれる手があった。――陵さんの手だった。
怒りを煮つめた低い声が、耳元で囁かれる。
……彼の体温に安堵しながらも、心の奥底は冷たいままだった。
大広間は呆然と、お父様とその一派らしき者たちが去っていった方向を見つめている。今は静かだが、やがてわたしや陵さんを疑う言葉や両親への怒りが叫ばれるであろうことは明白だった。
もはや娘ではない、か。
いや、それは、もうとっくにそうだったのだろう。
櫻蘭姫の、「悲劇の姫君ぶっていれば、誰かが解決してくれるとでも思っておるのか」という言葉が今になって思い出される。
本当に愚かだ。情けない。
櫻蘭姫は正しかった。それなのに――。
案の定、次々と噴出する怒号。
身を強ばらせ、隣りにいる陵さんを見上げる。彼は難しい顔をして押し黙り、口を噤んでいた。
……彼はわたしの立場に気を使ってくれているんだ。だから、うまく説明できないでいる――。
そう気づいた時には、わたしは既に口を開いていた。
怖い。その証拠に声は震えている。
それでも――非難と批判に晒されたとしても、彼だけを矢面に待たせる訳にはいかなかった。
断言した。
肩で息をしながら、大広間の大人たちを見渡す。
……言えた。言うべきことは、ちゃんと言えた。
肩を支えてくれる手に力がこもり、さらに強く抱き寄せられる。
真剣な次期当主の言葉に、一瞬怯んだものの――すぐに勢いを取り戻した本家の人々が、口角泡を飛ばす。
しかし、
次の瞬間だった。
矢を放つ直前の張り詰めた弓のような、
あるいは破魔の鈴の音のような。
そんな声が響き、広間は一気に静まり返った。
ややあって襖が開き、姿を現した声の主を見て……陵さんがどこか呆然と漏らした。
わたしは半ば呆然と、彼女の姿を見つめた。
夜空を閉じ込めたような艶やかな黒髪。
月光に磨かれたようなその冷ややかな美貌は、神に仕える巫女のようでありながら、夜を支配する女王のよう。
葉月さまはその問いには応えなかった。
そのかわり、静かな瞳でこちらを見た。
ええ、と、葉月さまは頷く。
――そうですね?
葉月さまが鷹揚に広間を見渡した。途端、その場にいた一族皆が居住まいを正し、「はい」と応える。
言葉で説明してあまりある威厳に、背筋が震える。
与えられた三日間で、櫻蘭姫が味方であると証明すること。
……これは真実、わたしたちに与えられた試練だった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!