第6話

006┊︎ 霧に射す-筋の光
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2025/08/05 04:23 更新
…ふふ、こんなに震えちゃって
ほんとに可愛いなぁ
鬼は舌なめずりをしながら、あなたを見下ろしていた
霧が濃く、肌にまとわりつくような冷たさが骨まで染みる

傷だらけの身体
握る刀にはもう力が入らない

立ち上がろうとするも、膝ががくりと折れて地面に手をつく
“霧の剣士”って聞いてたからさ
もっとこう……強いのかと思ってたのに
こんなにボロボロじゃあ、がっかりだよ
鬼の爪が、あなたの首元へと伸びてくる――
ほら、力も入らないでしょ? もう終わりだよ
せめて、可愛い顔のまま喰ってあげる
その瞬間だった

 

――ザッ

 

空気がふっと変わる

霧の奥から、一筋の風が走るような感覚

その場にいた鬼も、直感的に「何か」を察したのか、顔をひきつらせた
……っ? だれだ……?
――君に答える必要はないよ
低く静かな声と共に、霧の中から現れたのは――

長く艶やかな黒髪、均整の取れた小柄な体躯、そして何よりも無表情で澄んだ瞳

 

霞柱・時透無一郎
時透 無一郎
酷い……………許さない……
あ???うっせぇな今お楽しみ中なんだy
----ずばっ!!!
唐突に、鬼の右腕が空を舞った
…ッ!? な、なに……?
すぐに、胴体が横に裂けて――鬼の体が、まるで霞に溶けるように崩れ落ちていく

霧の中から、一筋の銀の光が走った
…なっ、んで……見え……な……ッ……
最後の言葉も届かないまま、鬼は塵となった

 

しん……とした空気の中
あたりには、淡く霧が立ち込めている
時透 無一郎
……間に合って、よかった
その声に、あなたの目がゆっくりと開く
あなた
…無一郎……くん……?
時透 無一郎
うん
俺だよ
刀を下げ、ゆっくりとあなたの元にしゃがみ込む無一郎

血に染まったあなたを見て、小さく眉を寄せる
時透 無一郎
……ひどい傷
ひとりでこの鬼を相手してたの?
あなた
……うん……でも……うまく、できなくて……
無一郎はしばらく黙って、あなたの目を見つめていた

やがて、静かに口を開く
時透 無一郎
十分、やれてたよ
ここまで生きていたこと、それだけで本当にすごいと思う
その言葉が、胸にじんわり染みて、思わず涙がこぼれそうになる
あなた
無一郎くん……私……私…
時透 無一郎
……もう、しゃべらないで
大丈夫、俺が来たから
そう言って、あなたの手をそっと握る
時透 無一郎
怖かったでしょ
でも、もう終わったよ
その静かな声に、張り詰めていたものがゆっくりとほどけていく
あなた
ありが、と……無一郎くん……
あなた
私…守れたよ……約束
ちゃんと帰ってこれた
無一郎は黙って、、その後ゆっくり口を開く
時透 無一郎
帰ってこれただけじゃダメ
時透 無一郎
笑顔で、明るい声で、‪”‬ただいま‪”‬って言わないと
あなた
……そっか
あなたの意識が、静かに遠のいていく中

最後に聞こえたのは――
時透 無一郎
…ひとりで頑張って、えらかったね
今日も2話更新しちゃいます

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