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第1話

残り香
23
2026/02/19 10:47 更新
◆◇◆◇◆◇
夢を見る。
遠い遠い夢を。
あの時の私にあるのは、快楽と絶望だけで
導いてくれたあの人への親愛だけで
それ以外は、なにも感じる必要なかった。
コロシアイは夢で。絶望は終わって。みんな、段々元のみんなに戻っていって。
私も、段々元の私に戻っていって。
そうして手に入れた、『平穏』。
なのに、どうして______
罪木蜜柑
(こんなにも…………胸が痛いんでしょうか)
◆◇◆◇◆◇
空を厚い灰色の雲が覆っている。数ヶ月前にいた南国の島とは打って変わって、外では冷たい風が音を立てて吹き、冬の空気を運んでいる。
小泉真昼
もう冬だね
西園寺日寄子
あーあ。ちょっと前はいつも晴れてたのに
小泉真昼
不謹慎なこと言わないでよ。
無事にこうして出られたんだから
廊下でお二人はそう言いながら、書類がびっしり挟まれたファイルを運んでいる。苗木さん達のところへ届けに行くのだろう。
私達は元希望ヶ峰学園の生徒で、そして元『絶望の残党』。
あの人の導きのまま、この世を絶望一色に染めるためにたくさんの罪を犯した。人の命を奪い、遊び、壊し、そして絶望に落とした。
そんな私達を助けようと奮闘してくれたのが、苗木さんをはじめとする『未来機関』のみなさん。ヒトゴロシである私達を更生させるため、南国リゾートを舞台とした修学旅行で私達を絶望から脱却させようとした。
罪木蜜柑
(まぁ………結局、あの人に
 すべて利用されてしまったんですけど)
あの人のアルターエゴがモノクマを駆使して、私達の南国リゾート生活を絶望に染めた。
そのことについて、私からは何も言えない。
ただ、今こうして仮想空間から帰ってきた私達を、『未来機関』のみなさんが丁重に扱い、社会復帰に向けていろいろ手助けをしてくれていることには、感謝している。
罪木蜜柑
(ヒトゴロシ扱いしないどころか、
 こうして衣食住も提供してくれて………)
罪木蜜柑
(私は…………別に、
 あのまま終わっても良かったんですけど……)
罪木蜜柑
(けど……、とっくに絶望のまま
 終わっていたはずの私達を助けて、
 役割を与えてくださっているみなさんには)
罪木蜜柑
(すごく………助けられてますね)
まだ絶望から完全な復帰はできていない人は数名いる。私も、多分その中に入っている。
それでも、『未来機関』の方達の事務作業やちょっとしたお仕事の手伝いをさせてもらえて。ただ施しを受けるだけでなく、罪の償いの機会を与えてもらえて。
まだ完全ではないけど、まだ希望を見れるほど綺麗ではないけれど
少しずつ、前に進めていて
それなのに______
罪木蜜柑
(それ、なのに……………)
西園寺日寄子
ちょっと、何こんなところで
突っ立ってんだよゲロブタ!
罪木蜜柑
ひゃ、ひゃいっ………!?
ぼーっと考え事をしていると、西園寺さんがいつの間にかこちらへ近寄ってきていた。慌てて頭をペコペコ下げながら、道を譲る。
罪木蜜柑
す、すみませぇん……………。
こんなとこで……、ぼーっとしちゃってぇ
小泉真昼
ちょっと日寄子ちゃん。
そんなこと言わない
西園寺日寄子
ふんっ。小泉おねぇが甘やかすから、
いつまでもこいつのトロさが
直んないんだよ
小泉真昼
まぁまぁ。そう言わないでさ
小泉真昼
………それより、蜜柑ちゃん。
何か悩んでいることとかあるの?
罪木蜜柑
え、えぇ?…………ど、どうしてですかぁ?
小泉真昼
…………少し、元気がなさそうに見えたから。
何かあったのかなって
小泉さんは心配そうな顔で、私の目をまっすぐ見る。
ほんとうに、優しい人。穏やかで、前向きで。こんな私のことを心配してくれて、手を差し伸べてくれる。
綺麗で、まっすぐで
罪木蜜柑
(私とは………大違い)
西園寺日寄子
ちょっと!。小泉おねぇが聞いてるのに、
何ぼーっとしてるわけ?
西園寺日寄子
その耳は飾り物なのかなぁ?
罪木蜜柑
ふぇ、ふぇぇ。す、すみませぇん………
またぼーっとしてしまっていた。折角声をかけてもらったのに。慌ててまた頭を下げる。
そんな私に小泉さんは心配そうに、頭を上げてよと言った。
小泉真昼
………言いにくいことかもしれないけど
小泉真昼
話そうって思えたら、
いつでもアタシに声かけてね
小泉真昼
蜜柑ちゃんが悲しんでると、
アタシも悲しいからさ
罪木蜜柑
…………あ、ありがとうございますぅ
私がそう言うと、小泉さんは満足したように太陽のようにまぶしい笑みを浮かべた。
小泉真昼
じゃ、そろそろアタシ達はおつかいを果たさないと
西園寺日寄子
あーあ。こんなこと、
いちいち頼まないでほしいよねー
小泉真昼
アタシ達はお世話になってる身なんだから、
文句言わないの
西園寺日寄子
はーい。じゃ、わたし達はもう行くから。
罪木もとろとろしてないで、働きな
罪木蜜柑
は、はいぃ…………お気をつけて
お二人はそう言い、背を向けた。二人の姿が段々遠くなる。一瞬感じたあたたかさは徐々に冷え、再び冬の空気が心を冷やした。
罪木蜜柑
………………はぁ
罪木蜜柑
私は………どうすればいいんでしょう
罪木蜜柑
(まだお二人みたいに仕事を任されるわけではないし、再び絶望に戻るわけでもない)
罪木蜜柑
(どっちつかずの、半端物)
罪木蜜柑
(このまま迷惑ばかりかけて…………、
 私一人だけ、何もできないのかな)
迷惑。役立たず。お荷物。
その言葉を何回も何回も投げつけられた。
私も、そう思う。
罪木蜜柑
(私も、駄目な私が嫌い)
罪木蜜柑
(大嫌い)
罪木蜜柑
……………………
罪木蜜柑
(でも、こんな私でも)
罪木蜜柑
(あの人は、笑って許してくれた)
あの人
あの、魅力的な人
すべての人を虜にし、そして壊す
あの人からしたら周りの人間は、ただのゲームのキャラクターでしかない
それでもあの人は確かに
罪木蜜柑
(私を……………必要としてくれたっ!)
罪木蜜柑
っ……………………
心臓が大きな音を立てて暴れる。体温が上昇していくのがわかる。頭の中を小さな快楽が支配していく。
あの時、あの瞬間、あの人に必要とされた
それを思い出すだけでこんなにも、絶望的に私はあの人を心から崇拝してしまう。
罪木蜜柑
(このままだと………また、
 絶望に戻ってしまう)
罪木蜜柑
(そうすれば………苗木さん達に
 ご迷惑を……………)
罪木蜜柑
(だから、私は、忘れないと)
あの人のことを、忘れないと
罪木蜜柑
(忘れないと………いけないのに……)
ぎゅっと爪を手に突き立てる。
微量な痛みが伝わって、苦い感情が込み上げた。

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