主が学校に行っている間、俺は暇を持て余していた。主達が帰ってくるまでに寮に何か仕掛けようかとも考えたが、気分転換に外に行くことにした。
オンボロ寮の外に出れば、学校は見える距離にある。歩けばすぐ辿り着けるのに、バレたら主からお叱りをうけるので行けないのがもどかしい。
屋根の上からならバレないだろうか。とも考えたが、やめておいた。その代わり、教師からの許可が無ければ主が行けないという街へと向かう。
屋根から屋上へ移動し、地面の上を歩く人々を眺める。うちの万事屋街とは全然違う“洋”の雰囲気を見て、案外悪くないな……と一人考えたりする。
そんな時、下から猫の声と共に「待ってー!」と声を上げる幼い子供の声が聞こえた。
上から見てみると、路地裏の方に一匹の白い猫が逃げ、その後を一人の少年が追い掛けている。
仕方なく猫の前へと飛び降り、猫をゆっくりと抱き抱える。姿を見せるつもりは無かったが、やむ無しだ。
少年に猫を渡し、ツンと猫の鼻を人差し指で触る。
猫は「ニャー」と鳴くと、ペロッと俺の指を舐めた。
去り際に「歳を重ねる度、人はなんかしらの“色”に染まるが、真っ白だった自分を忘れるなよ。少年」とだけ言い、俺は左右の壁を蹴りながら屋上へ飛んだ。
屋上から少年と猫の様子を伺っていると、少年は「でもお前は、本物の雲みたいに僕の届かない場所までフラ〜っと勝手に行くなよ?僕はあのお兄さんみたいに飛べないからな?クラウド」と猫に言い聞かせながら路地裏から出ていく。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。