秋も深まり、少しずつ涼しくなり過ごしやすくなってきた10月中頃。
なぜか、呼び出しをくらっていた。
定時前に部長室ね、と言われ3時を過ぎたあたりからずーっとそわそわしている。
今日は収録もRECもないのでフリー。
雨小路は午前に葛葉さんのボイス収録があったらしく、今は雨小路とお話中である。
と、ここで雨小路が爆弾発言。
聞いても教えてくれないことは分かっているので眉を顰めて怪訝さを表現。
……効果ナシ。
なんて会話は、緊張して耳に入っていない。
緊張しなくていいと言われたものの心臓が今にも口から飛び出そうなのである。
部長室の扉をあけて椅子に座っている部長と目が合った。
「こっち」と手招きされて、対面の椅子に座る。
部長室の扉を閉めて、廊下を歩きながら目が滲む。
悔しさと、なんとも言えない責任感と、謎の杞憂。
叶さんのマネージャーから外された悔しさ。
女は結婚したら降格するんだ、みたいな昔の思想。
総務部で働く、と言う事実への緊張と、頑張らないといけないという責任感。
雨小路は、大丈夫なのだろうかという杞憂。
部長室に行く前、雨小路が言ったセリフを思い出す。
「まだ籍入れてないんでしょ?」
「今月中に入れれるようになるよ」
と。
忙しくないのが嫌なんじゃない。
こういう、マネージャーとライバーっていう距離感だったから、私たちは...
なにに?どうして?
私は、叶さんと籍を入れたい。
それは事実。
私、なにに焦ってるの?
その日は、なんだか家に帰れる気がしなくて、雨小路に体調悪くなった。と伝えてカバンを持ってネカフェに向かった。自分の気持ちと、頭の整理が追いつていなかった。
総務部へ行くことは、悪いことではない。むしろ、出世。
でも、7年居続けたマネジメント部から、おい出されたような、虚しい気持ちになるのはなぜなのか。
担当になった叶さんのマネージャーをたった二ヶ月ちょっとで降ろされる、悔しさ。
これは恋愛どうこうの話じゃなく、私の立場の問題だった。
総務部は在宅ワークが多い。
結婚する人には優良すぎる物件。
ネカフェの部屋に入ったと同時に、スマホが振動する。電話だ。液晶には叶さんと映っている。
彼はつくづく、喋るのが上手いと思う。
誰かを癒し、引き込ませる。
愛でてくれるような、声の持ち主。
彼と喋ったら傷もへっちゃら、みたいな。
悲しいことも悔しいことも、忘れられる。
君といれば、この先もずっと。
幸せになれる。
次の日、私は会社を休んで叶さんの家に向かった。
もちろんアポはとってある。
チャイムを鳴らすと、インターホンから眠そうな叶さんの声が聞こえてきた。
玄関で靴を揃え、突っ立っていると
キッチンで手洗って〜
と眠そうな声が聞こえてきた。
リビングに行くと叶さんはソファで
スマホを触っていた。
荷物を置いてキッチンに向かい
石鹸でごしごし手を洗う。
水道のレバーをキュッと下げ
棚を見回す。
食パンで簡単に作るか
凝ったもの作るか...
ホットミルクも飲んで欲しい。
食パンを一枚取り出す。
コーンとマヨネーズをかけてトースターにイン。
ダイアルを4ところに合わせる。
冷蔵庫から牛乳を取り出し耐熱らしき
コップに注いでオーブンレンジに入れる。
こちらは1分30秒。
焼けたトーストをお皿に乗せる。
ホットミルクにはスプーン一杯分はちみつ
を入れる。
お盆に乗せて、リビングテーブルに
置く。
数時間して、洗い物も終わり
一緒に洗濯物を干してからリビングでくつろぐ。
部屋にはいくつかの段ボールがおかれ、
引っ越しの準備を始めているんだな、と分かる。
同棲生活まで、そう遠くない。
その未来へ足を進める。
叶さんの綺麗な顔を見つめ
目があってへにゃりと笑って
幸せな日々を実感していく。
あとがき
続編、お楽しみいただけましたでしょうか。
今後の番外編を書くにあたっての基盤作りだったかなぁと思います。
最近日常生活でびびっとくるような出来事がなくつまらないと言うとアレですが、なにも思いつきません。
筆が進まない。
うぅ、と嘆きながら番外編をちまちま書いたり短編をちまちま書いたり新作をたまたま書いたりしています。
でもどうしても筆が止まる...
頑張って書きます。
月一で番外編出してる方も、計画練って出さないとなぁと思っています。
忙しいのに、忙しくない。
びびっとくるものが書けない。
辛い状況ながら頑張っています。
次の投稿がいつになるかはわかりませんが、よろしくお願いいたします!
では!!











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。