私の悲鳴にも似た大声に、場がシーンと静まり返った。
今は他の女の子からの視線も気にして居られない。
だって、ようやく会えたから。
しっかり目を見てお礼を伝えて、頭を下げると。
どういたしまして、と彼は笑う。
茶目っ気たっぷりな仕草に、何やら周りが騒がしい。
痛い程の視線を感じる中心で、自己紹介を始めて。
私達の先輩後輩の関係が、出来上がった頃。
聞き慣れた幼馴染の声が、私の名前を呼んだ。
振り返れば、心配そうに眉尻を下げる梨央。
優し過ぎる故に、私を置いて行けなかったのだろう。
そっと頭を撫でれば、彼の表情は輝いて。
犬みたいで可愛い、なんて言ったら怒られるから。
ここは素直に頷いた。
袖を引っ張られながら、桃谷先輩に向かって微笑む。
先輩も優しい笑顔で手を振り返してくれた。
今も海外に居る日本人学校の同級生。
ホームステイ先の家族や友達を思い出す。
飛行機の中で少しだけ恋しくなったりもした。
でも、この先は自信を持って笑顔で暮らせると言える。
.......何故なら。
私には、梨央が居るから。
この先、彼に彼女さんが出来たとしても。
仲の良い友達のポジションを譲る気は無い。
実質的に、2人で遊ぶ事は無くなるだろうけど。
家族が結婚する人の寂しさが分かったような気がした。
私にとって、梨央は家族同然だから。
私が全力で走った所為で息切れして居る彼に謝りつつ。
今までで1番不器用に言葉を紡いで、笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!