場面は変わり、今はLHRの真っ最中。
ズラっと黒板に書かれた競技名を見て、
待ちきれない程に楽しみになる。
まあ、そう思えない人も居るのだが。
昔から率先して運動するタイプでは無かった幼馴染。
この季節が今年もやって来てしまったと嘆く彼は
運動神経が悪い訳では無いのに、筋金入りの運動嫌いだ。
梨央の嫌いには、理解を示してあげたいと思うけれど。
この行事に対しては無理な相談で、同意は出来ない。
断られるのを承知の上で。
一度、海外に引っ越してしまう前から、
毎年持ち掛けて居た提案。
今年も、なんだかんだ断られるんだろうなと思っていた。
でも、今年の答えは。例年とは少し違う物だった。
空白の時間で彼の中に気持ちの変化が生まれたのか。
はたまた別の理由があるのか。
ハッキリとは分からないけれど、嬉しかった。
人目がある事も忘れて、飛び付く。
スリスリと彼の胸に顔を埋めながら動かせば、
くすぐったそうに身を捩る。
傍から見れば、かなり変な関係に見えるのかも知れない。
付き合って居る訳でも無い、
幼馴染と言えども立派な男女が。
教室で恋人のような会話を繰り広げるのだから。
そんなクラスメイト達の心の声に
何となく気付いて居ながら、私達は会話を止めない。
梨央に好意を寄せる子が、
私に敵意を向けたと言う話も、チラホラ聞く。
.............だから。
こんな気持ちで、私は彼女達を迎え打とうと思う。
二度と、打ちのめされないように。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。