徒歩で言うと少し遠めの銭湯。
ここは知らない人ばかりだから、少し気が楽だ。
クラスメイトに家の事情を知られたら、おそらく俺のスクールカーストは地に落ちるだろう。
⋯⋯そういえば今はNakamuが近くにいない。
いつもの癖で話しかけようとしてしまった。
⋯⋯⋯⋯ちょっと疲れてるのかもなぁ、俺。
お湯に浸かるだけでも体が軽くなった。
汗も流れて、なんだか少し気が紛れたような気がする。
今なんて言った?髪を「乾かす」って?
ぬいぐるみにそんな事が出来るわけ無いのだが。
見渡すと、確かに今は俺とNakamuしかいない。
バッグのストラップが揺れ、マスコットがふわりと浮き上がる__
__その瞬間、誰かがそこに居た。
目にかかった茶髪。
水色の瞳。
パンダを模したパーカー。
そういえば、昔初めてあなたの呼ばれたい名前と会ったときもこんな姿だった気がする。
そんな経験があるのかも怪しい。
暖かい風に首元を撫でられる感触。
なんて言ってんだろう。風の音で聞こえない。
でも、けして悪いことでは無いのだろう。
こうして髪を梳いてもらうのは嫌じゃないと思う。
心地良いとはこういう事なのだろうか。
今はただ、Nakamuの手に委ねていたいと感じる。
帰路につき、二人で歩く。
普通の人にはこの姿のNakamuは見えないので、周囲には細心の注意を払う。
知らなかった。そんな事気にも留めていなかった。
なんで今あなたの呼ばれたい名前の名前が出てくるんだ⋯⋯⋯?
家に近づく度、足取りは重くなる。
眠れない日はノートに逃げるしかない。
よくわからない。
食べたいもの、行きたい場所、したい事____全てが無だ。
そのお陰で勉強は沢山できるけど。
折角遅くに外に居るんだし、と彼は言う。
俺はどうしたいんだろう。
でも、足が重くて帰ろうとしても息が詰まる。
ふと、彼が口を開く。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。