第13話

13 コスモス・ストーム
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2025/04/14 11:21 更新
どれだけ待って、雨に打たれながらも待って
なのに、レインはこの森に来なかった

(あれ、?忙しいのかな……そんなこと言ってなかったような…)

しかしいくら待てど、レインが来る様子はなく
雨粒がリコリスの肩にあたる

「わっ…、雨…?」

しとしとと降り注ぐ雨は次第に勢いを増し、次の瞬間には大雨へと変わった

リコリスは上を見るなり驚き、不安げな顔でその場を後にした


季節は秋、周囲の気温も下がっており、リコリスは震えながらも帰路につく

その道中、傘をさした花二輪の会話が耳に入る

「…心配よね」
「……ええ」

声のする方に耳を傾けたリコリスは、単なる世間話だろうとそのまま走り続けた
しかし、次の言葉でリコリスの足は止まる

「確か…リコリスの毒…なんですって?」
「リコリス…絶滅したんじゃなかったのかしら」

自身の名前と、毒という言葉の組み合わせはなんとも気味が悪く、聞き間違えかと振り返る

自身の毒を知らないリコリスは、目をこするがそこに二輪は存在する

「……レイン王子、なんともなかったらいいけど…」
「高熱なんですってね、体も弱いし…」

その名前を聞き、リコリスは生きた心地がしなかった
毒?そんな話リリーからも両親からも聞いたことがない

それもそのはず、リコリス同士では毒は通用しない
独立国で他国と関わることがなかったのだから、知らなくても当然だ

青ざめてゆく顔、光の消えゆく瞳で自身の両手を眺める

普通の手、人型の花の手

…これが、毒?今までたくさんの人に触れてきたのに、どうして今、なんて考えて

「…あら?そこのお嬢さん、どうかしたの?」

一輪がリコリスに声をかけた
きっと善意だ、傘を差し出してくれているのにも関わらず、リコリスは走って逃げてしまった

花と話すのが怖くて、自分が怖くて

「ごめんなさいっ…」

涙が溢れる、いつから?昨日…一昨日、確かに少し体調が優れなさそうだった

いつから毒が?もしかして、最初から?
そんな思考が巡り、リコリスを巻きつけて支配する


「………」

宿に戻るなり、リコリスはリリーの植木鉢を眺めながら、膝から崩れ落ちてしまった
考えてみれば、リリーの不調…近頃、リリーは体調を崩すことが多かった

自身の体が弱いこともあり、気付けなかった
その罪悪感に蝕まれてゆく

今まで不思議に思っていたこと、何もかもの辻褄が合う

「リリーくんは…このこと、知っていたの…?」

返事はもちろん返ってこない、届いているのかもわからない

壊れてくリリーの身体を思い出し、涙が溢れた
それが、自分のせいだったのだから

後悔と罪悪感で埋め尽くされる、自分で調べていれば、もっとはやく気付けたかもしれないのに
そう自分を責めて-


いつも大丈夫だと、それよりリコリスの心配をしていたリリー

何年も何年も旅を共にしてきた
どれだけ苦しかっただろう、痛かっただろう

「ごめん…、ごめんっ……」

啜り泣きで、小さな謝罪は部屋に響くこともない
静かだ、ただ雨が屋根にはじけて雨音を奏でる

暖炉はパチパチと音をたてて、寒気に震えたリコリスは暖炉の前にしゃがみこみ、手をかざした

「…私が弱いから……?」

自身が弱いから離れられなかったのか

たった一輪で抱え込むには重すぎた
息が苦しい、こんなにもつらくなったのはいつ振りだろうか
リリーのおかげで幸せの最高潮にいたリコリス

だからこそ一緒にいたいというわがままな想いはある

しかし、このまま一緒にいればリリーが死んでしまうことも悟れるほど、近頃のリリーは衰弱していた

「…前はもっと元気で、声もはっきりしてて……」

なのに、自分に弱いところを見せてくれなかったリリーに怒りすら湧いてくる

それに気付かなかった自分には、その数倍の怒りと後悔が襲う

別れの時なのだろうか、もう…お別れなのだろうか
まだ話したりない、もっと一緒にいたい

…話し合うことも大切だろう、しかしリリーはどんな形でも着いてくる、それはリコリスにもわかること

 そのまま数日、リコリスの葛藤は続いた

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