「リリーくん、今日はね…」
コスモス国に滞在を始めてようやく2週間が経過した頃
普段リリーに任せていたことを、リコリスなりに精一杯、やり遂げようとしていた
そして、毎日植木鉢に向かって、話し掛けている
「来年は、働かなくていいようにわたし頑張るからね、だから一緒にお話しようね…」
返事をするように風が吹き、レースカーテンがひらひらと頬に触れる
夜風が吹き、開けた窓から星明かりと共に差し込む
ベッドランプの乗る棚に、代わりに乗せたリリーの植木鉢
ベッドにうつ伏せになり、手に顔を乗せて、片手で植木鉢に触れる
しかしリコリスは知らない
自身の毒のことを
雨降る翌朝、早起きしたリコリスは手紙をポストに入れるという作業で村を転々としていた
「あぁっ…!」
雨で滑る石の道、案の定転んで膝を擦りむき、手紙は散らばってしまったと思われたのだが
手紙は無事、とある青年に拾われて手元に戻る
「お姉さん、大丈夫ですか…?」
と、優しく手を差し伸べるのは暖かい桃色の髪と桃色の瞳を持つ、煌びやかな服を着た優しい雰囲気の青年
彼の手を取るリコリスは、ありがとうございますと微笑んだ
青年は、長くその手を取られたまま、しばしリコリスと見つめ合った
「…あの、旅の者ですか?」
「は、はいっ…そう、ですけど……」
ローブを被っていても、全てを見透かされそうな不安感がそこにある
「あのっ…手…離して……」
「あっ、すみません……」
青年はさっと手を離すと、片方の手でその手を握りながら、もう一度頭を下げて謝ると、その場を去ってしまった
コスモス国は秋にしては暖かく、比較的穏やかに過ごすことができていた
(今年はここで眠ろうかな)
いつか、聴き覚えのある音楽を口ずさみ、その声は風に乗り、透き通り、消えてゆく
儚い歌を歌いながら、リコリスは仕事を終えて近辺を散歩していた
花のない森に足を踏み入れる、水の音が心地よい
目の前がぼやけるほど美しい水音は耳に響いた
…足音が聞こえる草を踏み倒して、こちらに近付く足音が
「…あっ!」
昨日会った青年の姿が見える
それが偶然か、必然か
青年は嬉しそうに目を輝かせると、リコリスの座る、花が三輪は乗れそうな岩の隣に座った
「あ…あの、…あなたは……?」
「レイン・コスモス・ローゼです、あなたは…?」
小さく可愛らしい青年は、自分の胸に片手をあてて自己紹介をすると、頭を下げた
「り…リト・アッシュです」
ぎこちなく微笑むリコリスに、少し肩の上がったレインは話しかける
「リトさん…!あの、僕…あなたと話したくて……!」
「わ、私と…?」
あまり見知らぬ花と関わらないようリリーに注意されているリコリスだが、こんなにも目を輝かせているレインを前に拒むこともできず、眉をひそめていると、雨がぽつりと頬を伝う
リコリスは、この子となら話せそう、もしかしたら花見知りも克服できるかも、と自分に言い聞かせ
なんとかリリーの意志に抗い、レインと話せるよう、理由を飾り付けた
「だめですか…?」
「ううん…わかりました…お話しましょ…!」
やけになって、勢いで二つ返事をすると、レインは無邪気に喜んだ
それからのこと、リコリスは仕事終わりにレインと会うことが日課となり、リリーのいない日々の寂しさを埋めるよう、レインと話した
それでも、時折寂しくなってしまう
しかし、それから1週間ほどが経過した頃からレインは約束の森に現れなくなってしまった











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!