〈美波side〉
スタ...スタ...スタ...
私は雨の降る中、
まだ誰もいるはずのない学校へと向かっている。
流石に先生方はちらほら居るだろうが、
生徒は誰一人居ないであろう早朝に歩いている。
制服だけ着て、何も持たずに。
理由は先程のニュースにある。
先程見たニュースで、
私の大好きで大切な親友と、
その子の好きな人が亡くなったと報道があったのだ。
どうして死んでしまったのか、
誰かに殺られてしまったのか、はたまた自殺なのか...
現場に残ったのはナイフだけのようで、
考えても死因は分からないままだ。
まぁ、ショックが大きすぎて、
そんなことを考えている余裕も気も、
今はもう無いけれど。
ただ、ただ、私は学校へと歩いている。
失望感と哀しさと絶望が
じんわりと私の心を満たす中、ただひたすらに。
人通りの少ない道を歩き続け、私は学校に着いた。
早朝だが一応登校可能時間であるため、
校門はしっかりと開け放たれていた。
私は静かに校門を通り、昇降口へと向かった。
ゆっくりと靴を脱いで、靴箱にしまう。
いつもなら、莉音と一緒にここに来て...
いつも通り話をしながら靴をしまっていた。
だが今は、あたりまえだけど独り。
もう二度と、あんな平和な日常は戻らない。
その事実が、とても苦しくて、哀しい。
平和な日々を思い出しながら、私は階段を上る。
まだ生徒の誰もいない静かな校内を、
あたりまえだが物寂しく感じながら。
スタ、スタ、スタ...
私の足音だけが、廊下に響き渡る。
朝なのになんだか不気味だな、
そんなことを思っていたら...
タッタッタッ...
もう1つ、私以外の足音が響いた。
風真の声...なんで?どうしているの...?
彼はそう言って、
柔らかく、そして哀しそうに微笑んだ。
そっか...。
風真も、私と同じ目的でここに来たんだ。
こんなところ似るなんて、本当嫌になっちゃう。
なんて、そんなことを思いながら、
二人で屋上へと向かった。
ガチャっ...
そんな話を交わしながら、私と風真は扉をくぐった。
なんて笑いながら、2人でフェンスを跨ぐ。
先ギリギリに立って、私たちはそのまま話を続ける。
...やっぱり私たちって似たもの同士みたいだ。
親友と友達が死んでしまっているのに、
私達もこれが最期の時間なのに...
今はただ、一緒に笑うことしかできないみたいだ。
いや、最期だからなのかな。
普通なら立ち竦んでしまうであろう場所に
私たちは立っているが、
今は風が心地よいと思えるほどに落ち着いていた。
さっきまで莉音達のことを考えると
絶望感しか無かったのに、
今はもうすぐそっちに行ける安心からか、
全く苦じゃなくなっていた。
嘘...じゃあ結局言えずじまいってこと...?
告白しとけばよかったのに...
そしたら、少しは私の気持ちも楽だったのにな。
思わぬ質問が来てしまった...
目の前にいるんだけど...
まぁ、最期だし少しは素直になってみる...?
まぁ、実際には1人しか好きになってないから、
恋はひとつしかしてないけれど。
普通に教えるなんて私らしくないから...
ちょっと意地悪してみようかなw
...これが私が言える限界だよ。風真。
...やっぱり風真じゃ気づかないかな。
国語が苦手な風真には、少し意地悪過ぎただろうか。
少し回りくどい告白をした私は、
伝えても伝わらない想いに少し落ち込んだ。
だがその直後、風真が少し頬を赤らめながら告げた。
私は思わず目を見開いた。
そして風真の言葉を理解し、嬉しさで涙を流した。
でも莉音が好きだし、今はそんなことないはず。
だから昔のことだって、分かってはいるけど...
今はただ、少しでも想ってくれていた事実が嬉しい。
思わず2人で吹き出してしまった。
隣で笑う風真を見て、私はしみじみと思う。
私、一瞬でも風真の1番になれてたんだ...。
やっと、私の想いが報われた気がする。
そろそろお別れだ...
少し名残惜しく感じた私の脳内に、
ひとつのわがままが浮かんだ。
...最期くらい、言っても怒られないかな。
風真は少し驚いた顔を見せ、
その後柔らかく、少し照れくさく微笑んだ。
これが、私の最初で最期に言う風真へのわがまま。
私は風真の手に自分の手を重ねた。
そして優しく2人で繋ぎ合う。
風真の手はじんわりと熱を帯びていた。
ずっと好きな人の手。
ずっと繋ぎたかった手。
それが今私の手と重なっている。
その事実を噛み締めながら、最期の会話を交わす。
私と風真は見つめ合う。
そして最期に約束を交わした。
こうして私達は身を投げ出した。
私たちを雨上がりの空が優しく照らす。
短い人生だったけど、私は幸せだったな。
目を閉じながらそんなことを思っているうちに、
全身に衝撃が走った。
そろそろこの世ともお別れだな。
私は残った力で閉じていた目をもう一度開き、
明け方の空に向かって小さく微笑む。
また来世で、みんなと繋がれますように。
最期に私は空に願った。
願った空は、とても暖かく優しくて...綺麗だった。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!