第8話

E p i s o d e . 8
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2026/07/25 07:00 更新
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翌日。

私はスマホ画面を見つめていた。

昨夜、仁人さんと連絡先を交換した。
そして初めてやり取りをした。

とはいっても、内容は契約の事についてばかり。

まだ友達同士のように気軽には話せない。
それでも、連絡をするのが少し楽しかった。

そんなことを考えていると、スマホに通知が届いた。
吉田 『おはようございます。』

『おはようございます!』

吉田 『今日、雑誌の撮影があるんですけど良ければ来ませんか?』

私はしばらく画面を見たまま考えた。

私なんかがお邪魔じゃないだろうか。

そんな考えが頭を通る。

少し間が空いてから、続けてメッセージが届く。
吉田 『無理にとは言いませんのでどちらでも大丈夫ですよ』

『邪魔にならないのであれば、行きたいです』

吉田 『待ってます。』
私はスマホを置いて、鏡を見た。


「...。」


今日は何を着ていこう。
そう思った。

いつもなら、こんなに悩まない。
男女受けどっちもいい服を着て、人並みにおしゃれして。

ただ撮影を見に行くだけなのに、
変に気合いを入れる必要なんてないのに。


「...これとか、?」


奥に閉まっていたいつもは着ない系統の服を取り出した。

いつも上げてる髪も、今日は下ろすことにした。

私は、自分でも少し不思議だった。


「...普段通りでいいのにな。」


そう呟きながら、靴を履いて玄関を出た。
撮影現場に到着すると、すでにスタッフは忙しそうにしていた。


「あ、あなたの下の名前ちゃん!」


塩﨑さんが最初に気づいて駆け寄ってくれた。


「お疲れ様です」

「お疲れ様!来てくれたんや!」

「仁人さんに誘っていただいて。」

「そっか!」


塩﨑さんは嬉しそうに笑って言った。
その近くに居た、佐野さんも私に気づいてこっちに来る。


「昨日ぶり」

「お疲れ様です」

「今日は見学...?」

「はい、たぶん...。」

「たぶん?」

「私も、どういう感じなのかよく分かってなくて。笑」


私がそう言うと、塩﨑さんが話し始めた。


「あー、吉田さん説明足りひんもんなぁ。
まぁ大丈夫やろ!」

「はい、笑」


その時、スタッフから声がかかる。


「吉田さん、塩﨑さんお願いしまーす」

「あ、行かんと。じゃあ見といてな!」

「はい...!」


二人はすぐにスタッフの元へ向かった。
私はその背中を見送った。


「...仁人、すごいよね」


隣から佐野さんの声がした。


「...?」

「カメラの前に立つと、顔つきの切り替えがすごいからさ」

「...ほんとだ、」

「本人はそのつもり無さそうだけど。笑」


私は仁人さんを見る。

撮影中の仁人さんは、真剣な表情をしていた。
普段の穏やかな笑顔とは違った。


「仁人さんって、普段からああいう感じなんですか、?」

「どんな感じ?」

「真面目というか。ちゃんとしてるというか...」


佐野さんは考えるように鼻を触った。


「昔からそうかも」

「そうなんですね...」

「ヒットしてからもっとそうなった気がするけど。
あーでも、仁人も最初からなんでも出来たわけじゃないよ」

「そうなんですか、?」

「うん。仁人だって、普通に悩むし落ち込むし、変に頑固だし。笑」

「...意外です」

「でしょ。笑」

「はい。笑」


私は思わず笑った。

その時。撮影の合間の仁人さんと目が合う。
仁人さんは少し目を細めてから、私に笑いかける。

私もつられて笑った。


「...ぇ」


佐野さんが声をもらしたように言う。


「...どうしました、?」

「いや、仁人ってあんな顔するんだって思って。」

「...ん、?」

「ごめん、なんでもない。」


佐野さんはこれ以上何も言わなかった。
しばらくして、撮影に一区切りついた。

吉田さんがこちらへ歩いてくる。


「撮影お疲れ様です」

「ありがとうございます。
退屈じゃなかったですか...?」

「全然!佐野さんが話し相手になってくれたので」

「そうなんですね。」


仁人さんは佐野さんの顔を見て言う。


「余計なこと話してないよね?」

「別に話してねぇよ。笑
ね、あなたの下の名前ちゃん。」

「えっ、はい...!」

「ほら。笑」

「ほんとかよ」

「...ってか、仁人...笑」

「なに?」

「いやなんでもない。笑」


私は二人の会話がよく分からないまま、佐野さんは行ってしまった。
撮影が終了し、家に帰ったのは20時。

仁人さんとは現場の中で何度か話した。
他のメンバーとも少しだけ話せて、仲が深まったみたいで少し嬉しかった。

その時、スマホが震えた。
吉田 『今日は来てくれてありがとうございます。』

『こちらこそありがとうございました』

吉田 『勇斗と何話したんですか?』

『内緒です!笑』

吉田 『分かりました笑』

吉田 『少しだけ気になりますが。』
私は返信を見て笑った。


「...まぁ、自分のことを話されてたって言われたら気になるよね。笑」







恋人を演じるために始まった連絡。

でもその夜。

二人は初めて、契約以外の話をした。





私は深く考えずにスマホを閉じて目をつぶった。

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