忘れっぽくて
うっかりが多い私でも
あの日のことは
ちゃんと覚えていた
憶えてたからだろうか
駅のホーム
目の前には沢山の人が並ぶバス停
遅延証明書は、カバンの中
バスだったらまだ間に合う
でも、雨だからか人が多くて
人混みが苦手な私は
傘を開いて
大通りを歩いた
腕時計の長針を見て
ほんの少し、足を速める
怒られるのは嫌じゃない
それに、担任の先生は
初老の優しい、穏やかな先生
怒鳴ったりすることなんて
天と地がひっくり返ってもない
でも、遅れるのは
なんとなく嫌だったら、
しっかりしなきゃ、自分
不意に、腕を引かれた
声が出るまでもなく
私はその声の主の腕の中に
そして、先ほどまで私が
いた場所には
トラックから跳ねた
泥水の海
生温い、湿気を伴った風が
遅れて頬を撫ぜる
困ったような
優しい声
咄嗟に頭を下げると
その人は柔らかく笑って
大丈夫だよ、
そう言って、駅の方へ歩いて行った
どんどん、人混みに紛れていって
すぐにわからなくなった
そう思ったのに
少しだけ、
安心していて











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。