第8話

能無しパーティー
95
2024/09/04 15:55 更新
パーティー当日。

七瀬からパーティーの招待を受けた鈴と結月は、制服以外の正装をする為に七瀬の暮らす新月堂に呼ばれた。

今回の3大桜の満開を祝うパーティーは、学園の行事ではない。

首桜様と桜姫、桜華殿と新月堂。
桜を守護する貴族たちの大きな祭りだ。
したがって、学園の制服では場違いになる。
首桜様や桜姫は各々に規定の衣装で正装するのだ。

もちろん、その招待客も普段着とはならない。
新月堂には桜姫の為の私服なども多数取り揃えており、女性が正装するにはもってこいの場所だ。

この国の正装は、和洋折衷で女性は和服に洋風なレースなどがあしらわれた着物ドレスが主流である。

桜姫は式典やパーティー用のドレスの中から選んで着るため、普段着の中から選んで着ても良いとのことだった。
普段着と言っても、ワンピースなどの上品なものばかりでドレスと言っても良い程のデザインばかりだ。
七瀬琴美
七瀬琴美
どれでも好きなものを着てね。
大谷結月
大谷結月
え、すっごく可愛い…。
こんな服が着れる日がくるなんて
涼風鈴
涼風鈴
いつも制服だから、なんだか恥ずかしいね。
七瀬琴美
七瀬琴美
首桜様はみなさん正装をしているわ。
このくらいの服を着ないと、逆に失礼ですから
大谷結月
大谷結月
普段から首桜様と会う機会の多い桜姫なら、このくらいが私服で普通になるのか…。
涼風鈴
涼風鈴
考えられない世界だね
七瀬琴美
七瀬琴美
そうでもないわ。
私も最初は驚いたけど、意外と慣れていくものよ
大谷結月
大谷結月
桜姫の余裕ってやつですね…
それぞれ服を選び着替える。
鈴が選んだのは、シンプルな白のワンピースだった。
Aラインの女の子らしいシルエットで、桜の刺繍が裾に入っている。
この国の装飾品は桜のモチーフが本当に多い。
涼風鈴
涼風鈴
わぁ、かわいい。
こんなワンピース着てみたかったの。
七瀬琴美
七瀬琴美
あら、とっても良く似合うわね!
良かったらそれ、鈴さんにあげるわ
涼風鈴
涼風鈴
え!?
い、良いんですか?
七瀬琴美
七瀬琴美
ええ、最初からそのつもりで女官にも話してあるの。
結月さんもそのまま着て帰ってね。
大谷結月
大谷結月
ありがとうございます!!
じゃあ、お言葉に甘えて♡
鈴やったね!
涼風鈴
涼風鈴
う、うん!
ありがとうございます!
鈴と結月は可愛らしいワンピースに身を包み、なんだか桜姫の仲間入りをしているみたいになった。

優しい七瀬と仲良くなり、まさか首桜様に会いに行けるなんて…と、期待と緊張でいっぱいだった。

3人は新月堂を出て、隣の桜華殿へ向かった。
会場に着くと、既にたくさんの招待客が集まり各々グラスや料理を手に取り話に花を咲かせている。

七瀬が歩く少し後ろを2人は付いていた。
大谷結月
大谷結月
わあ…すごい、本当にパーティーなんですね!
七瀬琴美
七瀬琴美
この時期は、今日が1番大きなパーティーよ。
もうすぐ首桜様もお見えになるわ。
???
???
夕桜様
会場に入り鈴と結月を案内する七瀬。

そこへ、彼女が視界に入るなり真っ先に声をかけた人物がいたーー。
七瀬琴美
七瀬琴美
えっと…。
あなたは?
滝本麗華
滝本麗華
お初にお目にかかります、滝本麗華と申します。
本日は夕桜様にお会いできて、大変光栄に存じます。
予期せぬ招待客にドクンと鼓動を打ちながら驚いていたのは、七瀬ではなくその後ろにいた鈴だった。

まさか麗華もこのパーティーに招待されていたなんて思いもしていなかった彼女は、着飾って別人のような麗華の突然の姿に身構えた。
涼風鈴
涼風鈴
れ…麗華…。
滝本麗華
滝本麗華
あら?
あなた…。
何故、鈴さんが夕桜様と一緒に居られるのです?
七瀬琴美
七瀬琴美
私が招待したのよ
滝本麗華
滝本麗華
ゆ、夕桜様がですの!?
…まあ、一体どんなコネをお使いになったのかしら?
大谷結月
大谷結月
ちょっと。
コネってなに?
変な言いがかり付けないでくれる?
滝本麗華
滝本麗華
あなたは?
大谷結月
大谷結月
鈴の友達の大谷結月。
鈴は今日、七瀬さん直々にパーティーの誘いを受けたの。
コネとか嫌味なこと言わないで。
滝本麗華
滝本麗華
嫌味だなんて…滅相もありませんわ。
わたくしは“事実”を、申しているだけなんですから…。
大谷結月
大谷結月
だから、それが事実じゃないって言ってるんだよ!
???
???
なんの騒ぎだ?
突然の麗華の失言に腹を立てた結月は、つい大きな声を出してしまっていた。

それを聞いていた人物が、状況を把握しようと声をかけてくる。
滝紅矢
滝紅矢
3大桜の満開を祝うパーティーにしては、いささか治安が悪いようだな…?
七瀬琴美
七瀬琴美
滝桜様…。
突然の滝桜の登場に、周りの視線は釘付けになった。

状況が穏やかではなかったせいで、まずいことになってしまったとその場の空気は一瞬で凍りつく。
滝紅矢
滝紅矢
夕桜、これは一体なんの騒ぎだ?
七瀬琴美
七瀬琴美
なんでもありません。
少し声が大きくなってしまっただけです…
滝紅矢
滝紅矢
その声を荒げた理由を申せと言っている
七瀬琴美
七瀬琴美
それは…
大谷結月
大谷結月
七瀬さんは悪くありません!
悪いのは、鈴の悪口を言ったそこの女!
滝本麗華
滝本麗華
まあ…どうされましたの?
わたくしは挨拶をしていただけですのに…。
滝桜様、わたくしは無関係ですわ。
本日のパーティー、とても楽しみに参りましたもの。
祝場の空気を乱すようなことは、一切いたしておりませんわ。
言いながら滝桜に対し、丁寧に膝を折り頭を下げる。
周りからみると、騒いでいるのは結月だけのようだ。
大谷結月
大谷結月
あんたね!?
そうやって、コロッと態度変えて!
滝紅矢
滝紅矢
静まらないか!
この場の空気を乱す者は容赦しない。
君は直ちにこの会場を出てゆけ。
大谷結月
大谷結月
なっ…!?
…言ったわね?
何が本当の原因なのかも探らないで、そうやって都合の悪い人間だけ追い出すんだ?
滝紅矢
滝紅矢
騒いでいるのは君だけであろう?
それが本当の原因でなくして、なにが正しいのだ?
大谷結月
大谷結月
…頭の硬い男。
見損なった。首桜さまとかなんとか言っておきながら、実際は権力にかまけた、ただの能無し野郎だ!
滝紅矢
滝紅矢
なんだと?
大谷結月
大谷結月
こんなパーティー、こっちから願い下げだよ!
怒った結月は、そのまま身を翻し足早に会場を出て行ってしまった。

鈴は終始その光景を見ていたが、何も言い出すことができずにその場に固まっていた。

結月のいなくなった会場は一気に静まり返った。
滝紅矢
滝紅矢
やはり、騒ぎの元凶はあの者で合っていたようだな…
言いながらその場を後にしようとする滝桜の脳裏には、言われたばかりの結月の言葉が頭から離れないでいた。
滝紅矢
滝紅矢
ただの能無し…か。
周りには聞こえない微かな声で、ぽつりと呟く。

滝桜に対してあのように啖呵を切る女性は、後にも先にも結月しかいないのではないか?

彼女の発言の意味を、少し考える必要がありそうだ。

滝桜は無言のまま、自分の定位置へと向かっていたーー。

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