第6話

親友
99
2024/09/01 04:33 更新

久しぶりの妹との再会に、鈴は怯えていた。

幼い頃の父親からの勘当宣言は、鈴の小さな心に風穴を開けた。

両親から出て行けと言われても、麗華は守ってすらくれなかった。

それどころか“出来損ないは出て行って当然だ”というような澄まし顔で鈴の姿を見送った。

その時にようやく鈴は、麗華が自分のことを嫌いだったことに気がついた。

いつも稽古で失敗していても、優しい言葉をかけて庇ってくれた麗華…。

それも、桜姫になるため。
上辺だけの綺麗さを気取るための配慮だったのか?

わからない、麗華が何を考えているのか。
どうして自分をそんなに嫌うのか。

ただ双子の姉妹なのだから仲良くしていたかっただけの鈴にとって、麗華の心の底にある鈴に対しての憎しみや悲しみを分かるすべはなかった。

分かろうとしてこなかった…という方が正しいのかもしれない。
涼風鈴
涼風鈴
そうだよね…。
麗華はずっと桜姫になるのを目指してるんだから、この学園に入学するのは当たり前…。
大谷結月
大谷結月
鈴ー?
ねえ、聞いてる?
涼風鈴
涼風鈴
え、あ、ごめんね。なんだっけ?
大谷結月
大谷結月
鈴、なんかこの前からおかしいよ?
なんかあった?
涼風鈴
涼風鈴
う、うん…。
麗華に声をかけられて…。
大谷結月
大谷結月
麗華?
…え、もしかして双子の!?
涼風鈴
涼風鈴
うん…。
双子の妹
大谷結月
大谷結月
そんなの無視しなよ!
鈴のことを捨てた家族でしょ!?
涼風鈴
涼風鈴
捨てた…て言い方は…。
大谷結月
大谷結月
だってそうじゃん!
出て行けって言われて誰も庇ってくれなかったんでしょ?
そんなの家族に捨てられたようなものだよ!?
涼風鈴
涼風鈴
うん………。
滝本家を追い出され、行く宛のなかった鈴を助けてくれた人がいたーー。

その人に拾われ、鈴はここまで生き延びることができた。

衣食住なに不自由なく生活させてもらえ、小学部にも通わせてくれた。

そこで仲良くなったのが大谷結月オオタニユヅキだった。

鈴は結月にだけは本当のことを打ち明けた。

双子の妹がいること。

父親に勘当されたこと。




結月はその話を聞くと、凄く怒ってくれた。
誰も庇ってくれなかったことが許せないと言ってくれた。

その瞬間から、鈴は結月を親友だと思えるようになった。
簡単に話せる内容ではないし、無理に言う必要もないと彼女を拾ってくれた家主にも言われていたので打ち明けるのはかなりの勇気が必要だった。

それでも伝えた後は、言って良かったと思えた。
結月のことをもっと好きになれたから。

それから2人はずっと一緒にいる。

鈴にとっての今の家族は、ここまで育ててくれた家主と結月なのだ。
大谷結月
大谷結月
で、妹になんて言われたの?
涼風鈴
涼風鈴
えっと…。
よくこの学園に入れたね〜とか、よく生きてたね〜って感じだったかな?
大谷結月
大谷結月
はあ!?
なんだそれ、頭くるー!!
鈴のこと捨てといてどの口が言ってるんだか
涼風鈴
涼風鈴
もっと丁寧な言い方だったけど、この学園に入れたのも偶然だろうから早く去った方が良いって…。
大谷結月
大谷結月
………。
目を細めて俯く結月。
その手は強く拳をつくり、プルプルと震えている。
涼風鈴
涼風鈴
ゆ、結月?
大丈夫?
大谷結月
大谷結月
…鈴。
そんなのもうやっぱり妹なんかじゃないよ?
今後、会っても話しちゃダメ!
涼風鈴
涼風鈴
う…うん。
わかったよ結月、ありがとう。
落ち着いて?
???
???
あの、お取り込み中のところ申し訳ありません
涼風鈴
涼風鈴
はい…?
七瀬琴美
七瀬琴美
この後、この場所で勉強会があるんです。
準備をさせていただいても宜しいですか?
大谷結月
大谷結月
ゆ、夕桜さま!?
七瀬琴美
七瀬琴美
あの、七瀬で良いです。
…あまりその名で呼ばれるのに慣れていなくて。
涼風鈴
涼風鈴
す、すみません!
すぐ退きますから…
七瀬琴美
七瀬琴美
あ、いえ、ごめんなさい。
退かすつもりではなかったんです…。
勉強会の準備をさせていただきたくて
七瀬の手には束ねられたプリント類と参考書が積まれており、それなりの人数で勉強会が行われることを意味している。
大谷結月
大谷結月
あっじゃあ、あたし達も手伝いますよ!
七瀬琴美
七瀬琴美
え?でも、悪いわ…
大谷結月
大谷結月
良いんです!
どうせ暇してましたから
涼風鈴
涼風鈴
そうなんです!
手伝いますよ
七瀬琴美
七瀬琴美
…じゃあ。ありがとう
3人はテーブルをセッティングし、七瀬が持っていたプリントを並べた。
こんな近くに桜姫がいることに、鈴と結月は感動して先程まで抱いていた麗華への感情はどこかへいってしまっていた。
大谷結月
大谷結月
驚きました、七瀬さんも普通にこうゆう場所で勉強するんですね?
七瀬琴美
七瀬琴美
初めての人には驚かれるけれど、桜姫になっても基本的には普通に生活できるの。
私はここで勉強するのが好きだから…
涼風鈴
涼風鈴
桜姫になる前からこの場所で?
七瀬琴美
七瀬琴美
ええ。初めは独りで勉強していたのだけれど、桜姫になってからはどんどん一緒に勉強したいって言ってくる人が出てきて…。今は順番待ちなの
大谷結月
大谷結月
順番待ち…。
なんか、大変そうですね?
一度の勉強会でこんな人数いるし…
七瀬琴美
七瀬琴美
仕方ないわね、桜姫ってだけで周りの反応が変わるのは目に見えてわかったもの。
もっと結芽香さんみたいにしっかりしないと…。
意味深な七瀬の言葉に聞き耳を立てていると、放課後のチャイムが鳴り響いた。

もう間もなくこの場所で勉強会が始まる。
大谷結月
大谷結月
じゃあ、あたし達はこれで。
話せて嬉しかったです!
七瀬琴美
七瀬琴美
どうもありがとう。
あなた達も今度は一緒に勉強会しましょうね
涼風鈴
涼風鈴
嬉しいです!
その時は、よろしくお願いします
ペコリと七瀬へお辞儀をして、2人はその場を後にした。

入れ替わりで勉強会へ参加する生徒たちが次々と入って行くのを見て、桜姫の人気を改めて知った鈴と結月だったーー。

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