佐久間side
朝、目が覚めた瞬間に、胸がざわっとした。
理由は分からない。ただ、何かを落とした気がする。
スマホを手に取って、時間を確認する。
通知はいつも通りで、特別変なところはない。なのに、頭の奥に霧がかかったみたいだった。
誰に言うでもなく呟いて、支度をする。
職場に着くと、阿部ちゃんがいた。
それを見た瞬間、呼吸が楽になる。
いつもと同じ返事。
それだけで、さっきまでの不安が少し薄れた。
でも、仕事を始めてから、また違和感が戻ってくる。
画面を見ているのに、内容が頭に入らない。
確認したはずの項目が、初めて見るみたいに感じる。
思わず声が出る。
阿部ちゃんがすぐ気づく。
その反応が早すぎて、逆に怖くなった。
誤魔化しながら、必死に考える。
俺、さっきまで何してた?
思い出そうとすると、頭の中がきゅっと締めつけられる。
思い出せない、じゃない。
最初から、そこに何もなかったみたいな感覚。
昼休み、阿部ちゃんと並んで座る。
この時間も、たぶん前からずっと一緒だったんだと思う。そう思えるくらい、自然だ。
心臓が跳ねた。
優しい声。
責めてないのに、逃げ場がない。
言葉を探して、指先を握る。
阿部ちゃんはすぐに答えなかった
その沈黙で、分かってしまった。
自分で言いながら、全然大丈夫じゃなかった。
怖いのは、忘れてることじゃない。
忘れてることに、慣れ始めてる自分だ。
それでも、阿部ちゃんを見ると、体が勝手に近づく。
理由も、過去も分からないのに。
声が少し震える
言い切る前に喉が詰まった。
阿部ちゃんは少しだけ目を伏せてから言った。
その答えが、優しくて、残酷で。
でも、俺はそれ以上何も言えなかった。
失くしてるものの正体は、まだ分からない。
でも輪郭だけは、確実に見え始めていた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。