阿部side
佐久間があんな言い方をしたのは、初めてだった。
軽い冗談みたいな口調だったけど、目は笑っていなかった。
気づき始めている。
それなのに、俺に判断を委ねてくる。
卑怯だと思った。
同時に、それが佐久間らしいとも思ってしまった。
仕事が終わっても、頭が切り替わらない。
画面の文字を追いながら、別のことを考えている。
――今、言うべきか。
――それとも、まだ黙っているべきか。
事実を並べることはできる。
忘れていること。頻度。傾向。
原因不明で、改善策がないことも。
でも、それを聞いた佐久間がどうなるかは、計算できない。
声をかけられて、顔を上げる。
いつの間にか、佐久間が立っていた。
当たり前みたいに隣の席に戻る。
この距離。この選択。
きっと、前から何度も繰り返してきた。
沈黙の中で、佐久間がふいに言う。
胸の奥が、ひやりとした。
正解すぎて、言葉が詰まる。
佐久間は画面を見つめたまま、続ける。
責める口調じゃない。
確認するみたいな声だった。
その問いに、すぐ答えられなかった。
答えなかった、が正しい。
そう言うと、佐久間は小さく笑った。
それ以上、踏み込んでこない。
それが余計につらい。
この人は、きっと真実を知っても俺を責めない。
だからこそ、言えない。
帰り道、並んで歩く。
信号待ちで、佐久間が俺の袖を軽く引いた。
理由もなく、そう言う。
まるで今日という一日を、必死につなぎ止めるみたいに。
その瞬間、決めた。
――言わない。
少なくとも、今は。
佐久間が「阿部ちゃん」と呼べるうちは。
隣に立つことを選んでくれるうちは。
真実よりも、
この距離を守ることを優先する。
それが正しいかどうかなんて、分からない。
でも今日の俺は、
“失う速度を早めない”ほうを選んだ。
その選択が、
あとでどれだけ自分を苦しめるかも知らずに。
♡、☆コメントお願いします!







![⛄💜17時のスイッチ[完結]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/EOkNL2MhxNOnLeVbLBmpGszqo363/cover/01KDMET6R8CVT70D1RTK9AKTAJ_resized_240x340.jpg)




編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。