第7話

𝕊𝕖𝕧𝕖𝕟
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2026/02/26 09:00 更新
阿部side


朝、会社に着く前にコンビニに寄った。
目的は決まっている。薄い、無地のノート。

棚の前で少し迷ったあと、いちばん安いものを取った。
特別なものにしたくなかった。
これは願いじゃない。ただの、手段だ。

席に着いて、ノートを開く。
白いページを前に、ペンが止まる。

――何を書けばいい?

日付。天気。
それから、事実だけ。

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・朝、佐久間は少し眠そうだった
・会議の時間を聞かれた
・昼は一緒に弁当を食べた

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感情は書かない。
「楽しかった」とか「寂しかった」とか、そういうのは全部削る。

事実だけなら、壊れない気がした。
佐久間大介
阿部ちゃん、何それ?
佐久間が覗き込んでくる。距離が近い。
阿部亮平
メモ
佐久間大介
珍し。阿部ちゃんが?
阿部亮平
仕事用だよ
半分は嘘だ。
でも半分は本当だった。
佐久間大介
ふーん
興味を失ったみたいに、すぐ自分の席に戻る。
その反応に、少しだけ救われる。

もしこのノートの意味を知られたら、
それだけで、何かが終わってしまいそうだった。

昼休み、佐久間が言う。
佐久間大介
ねぇ阿部ちゃん、俺さ
阿部亮平
なに?
佐久間大介
最近、覚えてないこと多いからさ。
なんか、まとめといたほうがいいかなって思って
一瞬息が止まった。
阿部亮平
、、、どういうの?
佐久間大介
一日のこととか。今日なにしたかとか
それは、俺が今やっていることと、同じだ
阿部亮平
いいんじゃない?
できるだけ、平静に答える。
佐久間大介
だよね。阿部ちゃん、そういうの得意そうだし
軽い調子。
でも、その“得意そう”の中に、無意識の依存が混じっている。
佐久間大介
俺、三日坊主だからさ。
阿部ちゃんがいれば続く気がする
続かせる役目。
覚えている役目。

気づけば、そんな役割を引き受けている。
阿部亮平
無理しなくていいよ
そう言いながら、否定できなかった。

夜、家に帰ってノートを開く。
今日のページを見返す。

そこには、確かに“今日”がある。
でも、その中心にいるはずの佐久間の感情は、どこにもない。

――これでいい。

少なくとも、今は。

忘れていく彼と、
覚え続ける自分の間に、
薄い紙一枚の橋をかける。

それが、俺にできる唯一のやり方だった。
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