第4話

𝔽𝕠𝕦𝕣
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2026/02/15 09:00 更新
阿部side


佐久間が同じミスをするのは、今日で三回目だった。

どれも致命的じゃない。
少し確認すれば済むことばかりだ。だから周囲は気づかないし、本人も深刻そうにはしていない。
佐久間大介
ごめん、阿部ちゃん
軽く笑って言うその顔に、昨日の影はない。
それが、いちばん苦しかった。
阿部亮平
大丈夫。直せるから
そう返しながら、俺は胸の奥で数を数えていた。
忘れている。確実に、少しずつ。

夕方、作業の合間に何気なく聞いてみる。
阿部亮平
佐久間、昨日の帰りさ
佐久間大介
うん?
阿部亮平
雨降ってたの覚えてる?
佐久間は一瞬だけ考えて、首を傾げた。
佐久間大介
、、、降ってたっけ
昨日、同じ傘に入って駅まで歩いた。
何気ない時間だったけど、俺にとっては確かに存在した記憶だ。
阿部亮平
そっか
それ以上は言わない。
言えなかった、が正しい。
佐久間大介
阿部ちゃんなんでそんな顔してるの?
阿部亮平
してないよ
佐久間大介
してるって。考え事してる時の顔
佐久間はそう言って、いつもの距離まで近づいてくる。
無意識だ。俺が一番分かってる。

――忘れているのに、近づく。

それが偶然じゃないことも、もう分かっていた。

休憩室で一人になり、スマホのメモを開く。
日付ごとに、佐久間との出来事が細かく残してある。

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・同じ質問をした
・約束を覚えていなかった
・でも呼び方は変わらない

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「阿部ちゃん」

文字にして、胸が詰まる。

記憶が抜け落ちているのに、
関係の“感触”だけが残っている。

それは回復じゃない。
むしろ、ゆっくり壊れている証拠だ。

佐久間は、まだ気づいていない。
気づきかけてはいるけど、確信していない。

確信しているのは、俺だけだ。

この先、もっと忘れる。
名前も、過ごした時間も、たぶん全部。

それでも佐久間は、きっと同じように俺の隣に立つ。
理由が分からないまま。
阿部亮平
、、、残酷だな
小さく呟いて、メモを閉じた。

それでも今日も、
俺は何も言わない。

佐久間が「阿部ちゃん」と呼ぶ限り、
その関係を、終わらせられなかった。
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