___逃げられたということは、上手く莉愛がやってくれたのだろう。そのくらいは分かる。
これで良かったのだろうかと思考を巡らせ続ける
きっと、これが最善だと、そう信じていても___本当にそうかなんて、誰にも分からない。
莉愛のことを酷く心配しているように見えるその顔は、何か別のことも心配しているように見えた。
それが何かくらいは、二人とも分かっていたが。
空気を入れすぎれば、風船は破裂する。負の出来事も加えすぎれば壊れてしまう。
少量の赤色の絵の具の中に大量の黒い絵の具を混ぜれば、赤色はまるで無かったかのように消えてしまう。嬉しいことがあったとしても、多大なる苦しみはそれすら見えなくしていく。
そうして壊れていくのだ___いや、瑠雨はもう既に、そういう状態だった。
確かな決意の中に、密かに惑いが揺れているのを感じていた。
この選択が最悪の結果を招きかねないことくらい、理解しているから。
星薇は悩んでいた。
先程から選択を迫られすぎていて、これを間違えてしまえば大切なものを失ってしまう気がして
怖かった。怖かったのだ、瑠雨を助ける道が正解すら未だ分からないから。
冬音は、真剣に___自分の中の妹と、向き合おうと心に決めた。
莉愛を助ける為、大切なものをもう二度と失わない為___
そうして莉愛がちらりとミレアムの方に視線を向ける。油断されているからか、高みの見物で手は先程から出されていない。それどころかセリニアも本気で責めては来ない。遊ばれているのだ、完全に。
セリニアが動いてきているのは分かっていて、咄嗟に防御をしようとしたが間に合わず、剣先が背を撫でていく。舐められているので深い傷ではないのが幸いだが、先程からそんな傷の蓄積がされていた。そんな莉愛にとってこれは、かなりの痛手でしかない。
何かが頭の中に降ってきた。
土壇場で思いついた理屈のよく分からないアイデアだ。やれるかどうかは分からないが___
半ば願望混じりに能力を使う。
味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚___それらが操れたなら、痛覚だって操れるはず。本当にそんな、ただの願望だけど
___そんな起死回生の一手だって、成功するのだ。
「 ___ねぇ 」
知らない感覚だった。何か知らない強い感覚が一瞬、電撃でも喰らったかのように襲って、恐ろしさと謎の脱力感で呆気なく地面に膝をつく。
( …どうしたら、いいの?"ことちゃん"…… )

一人、小さな少女が、瑠雨の中で何かに苦しむようにしていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。