席替えのくじ引きを引く瞬間って
いつもどきどきする。
窓際一番後ろの席がいいだとか、
教卓のすぐ前は嫌だとか、
廊下側は寒いだとか。
学生の間でしか出来ない席替え。
みんなで席の話でワイワイ盛り上がる
この瞬間が 、すごく好きだったりする。
自分の引いた紙に書かれた数字を
黒板のと照らし合わせると
そこは真ん中の列の一番後ろ!なんてラッキー!
私は周りの歓喜の声や落胆の声を聞きながら
真っ先に机を移動させた。
仲のいい友達とは離れたようで、
遠くに座る友達に手を振ると
羨ましそうに振り返された……のが、
すぐに目の前に現れた大きい背中に
隠れて見えなくなった。
落とされた影を見上げると
オレンジから水色に変わる襟足が見えて
心臓がどきりと音を立てる。
その大きい影の主は 、
後ろを何故か真っ先に振り向いて
私と目を合わせた。
「うわ、あなたの名字か!ごめん!」
周りよりも大きな声でそう紡ぐ人は、
2年になって一緒のクラスになった宇佐美だった。
筋肉質でガタイのいい体からは
想像もできないほどの優しい顔立ち。
1年生の時、すれ違いざまに見た笑顔が可愛くて、
そこからずっと気になってる存在だった。
そんな彼と同じクラスになってまともに話すのは
今この瞬間が初めてなわけなんだけど、
どうしていきなり謝られてるんだろうか。
「なにがごめん?」
「俺でかいからさ、前に座ると見えねえって
ずっと言われてきたわけよ。」
ほら今も見えねえっしょ、と
彼が前を向いてみせた。
確かに視界のほとんどが
彼の背中に支配されている。
「だからアレだったら他の奴と
変わるけどどう?」
「うーん…とりあえず様子見でもいい?」
もしこれが宇佐美以外だったら
代わってもらってたかな、なんて言葉は
口を塞いで隠した。
「意外と不真面目な感じ?」
「ばれた?眠い時とか
宇佐美に隠してもらお〜」
「まじかwwww 悪いけど俺 、
時と場合によっては全然売るよ?」
「嘘じゃん!?」
私の言葉に彼は楽しそうに笑った。
それから1週間ほど。
席が近いとやっぱり話す機会も増えるもので、
毎朝挨拶をして世間話を交わすような
『少し仲のいいクラスメイト』の
ポジションには入れてる気がする。
そして本題の授業は言うと……
私はあいにく背が高い方では無いから、
当然板書は…言っちゃうとほとんど見えない。
だけど宇佐美はその対応にも慣れているのか、
時々斜めに体をずらしてくれたり
体を伏せて黒板を見やすくしてくれたりする。
かと思えば、休み時間に
「宇佐美〜まだノート書けてないから
ちょっと避けて〜」
と菓子パンを食べている宇佐美に
声をかけながら体を傾けると、
宇佐美は同じ方向に倒れてきた。
「ちょ………ねーーえ見えないって!笑」
「ははは!ww」
私が右に傾ければ右に、左に傾けば左に。
思わずツッコむと
彼は楽しそうに笑い声を上げて。
「あなたの名字まじで反応がおもれーのよww」
「遊び道具じゃないんだけど!笑」
「いじりがいあんだよな〜ほんと」
そう言って今度はちゃんと避けてくれる。
彼の優しさに 、
少しの申し訳なさを感じるのと同時に
ふざけてもいい相手だと思ってくれてることが
嬉しくて……
一生席替えなんてしなくていいのに。
……なーんて思ってるのはきっと、
私だけなんだろうな。
そんなある日のことだった。
担任の先生が出張で不在ということで
やってきたのは3年団の先生。
厳しくて怖いと定評のある先生だった。
「うわ〜〜1時間目から
あいつなの最悪じゃね?……って、
あれ、どした?」
そして私はというと、
そんなことを気にしていられないほど
朝から体調がすこぶる悪く。
女の子の日のせいで腹痛、腰痛、頭痛の
トリプルコンボが私を襲っていた。
「お前……顔の色が
茄子みたいになってますやん」
「人の顔って紫になるの?」
「俺も初めて見た。大丈夫か?」
顔をのぞき込まれて普通なら
ドキドキする場面なのに、
そっちに気を回せるほどの余裕もなく。
ちょうどそのタイミングで予鈴が鳴って、
宇佐美は心配してくれつつ前を向いた。
私はポケットを探って運良く見つけた
鎮痛剤を飲んで、これで治らなかったら
保健室に行こう、と教科書を広げた。
「〜〜が………なのを証明するには〜」
……授業開始5分。早くも限界。
ぐるぐると回る視界に
きちんとした姿勢で座ることも出来ず、
思わず宇佐美の陰に隠れて顔を伏せた。
「………おい、そこの誰だ」
前から先生のそんな言葉が飛んできて絶望する。
絶対私の事、で。
周りから視線が集まるのを感じて
ああやっぱりと察する。
「後ろに隠れて何コソコソしてんだ。
普段からそうやってサボってるのか?」
あぁ、ずきりと心臓まで痛む。
そんなことないです、って言いたいのに
まともに喋れなくて。
「不真面目な生徒は前に来い。席交代……」
「先生。こいつそんな奴じゃないから!」
突然入り込んできた声。
まっすぐで、優しい声。
「今めっちゃ体調悪いみたいなんで
保健室連れて行きますわ!」
俺保健委員だったそういえば!なんて
言ってるけど 、
全然保健委員じゃないよね、宇佐美。
なのにその優しさは、ずるいじゃん。
「立てるか?」
「うん、」
宇佐美に支えてもらいながら廊下に出ると、
外から入ってくる新鮮な空気に
少し頭がスッキリする気がする。
「おぶろうか?俺」
「っえ!?いやいや大丈夫、歩ける、」
「いとこのチビとかよくおぶってるから
気にしねーよ?」
バカ、私が気にするんだよ。
なんて言えなくて口を噤んだ。
たどり着いた保健室に生憎先生はいなくて、
私は宇佐美に促されるままベットに座る。
「てかさ、俺ああ言ったけど
普通に俺の後ろいやだったら
言ってくれていいからな?」
「え?」
「いや〜〜ずっと言いたくても
言い出せねえのかなって思って」
目の前のベッドにどかっと座りながら
宇佐美はそう言う。
「……ううん、今のままがいい」
「そうなの?」
「宇佐美の後ろの席、好きだし。
……というか、宇佐美と話すの、好きだし」
そう思い切って言葉にすると、
驚いたようにその目を見開かせた。
「まじで言ってんの?」
「まじだよ、何、悪い?」
なんだかすごく恥ずかしくなって、
汚れ1つない布団を被った。
「や、……俺も同じこと思ってたから、びびった」
「え、」
今なんて?と、顔まで上げていた布団を
目元まで下げると、立ち上がって
背を向ける宇佐美の耳が真っ赤、で。
「俺戻るわ!ゆっくり休めよ!!
もう茄子にならねぇようにな!?」
怒涛の勢いで捲し立てられて
何も分からないままうん、とだけ返事をすると
カーテンの向こう側の宇佐美と目が合って。
「前の席で待ってるわ、早く元気になれな」
なんて言うから。
私はその大きい後ろ姿に、
恋心を自覚してしまうのだった。
コメチャレで壁打ちしたusm✊✊✊
usmまともに書くの初めてだったけど鬼楽しかった、また書きます✌️











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。