第9話

#7
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2025/11/05 05:51 更新
ーー高校時代ーー





少し日は流れ、7月になる


フジは川北さんに告ったが、川北さんはまさかのあなたの下の名前に惚れたらしく、玉砕していた




対する俺は特になんの恋愛的進展もないまま夏休みへ突入してしまった











……いや、全く進展が無いわけではないのか?



頑張って話しかけた結果、普通の友達程度には仲良くなることができた



フジたちが言っていた通り仲良くなるにつれて彼女の口数は増えていったし、表情も豊かになった






でも、たぶん「ただの友達」なんだろうな


まだまだ他人行儀な感じだし、向こうから話しかけてくれることもほとんどない












男子
ありがとうございました!
キヨ
ありがとうございました!


部活終わりのミーティング、部長の号令に続いてみんなが挨拶をして解散する




やっべ、考えごとしてたせいで全然聞いてなかった






誰かに聞こうかと思ってキョロキョロしていると、グラウンドのすこし離れた場所でドリンクのタンクを一生懸命運んでいるあなたの下の名前が目に入る



思わず駆け寄って声をかけた

キヨ
1個持つわ
あなたの下の名前
え、あっ、大丈夫ですよ
キヨ
いいよ、ひとりだし大変だろ?
あなたの下の名前
じゃあ……
そこのビブスが入ってる洗濯カゴ運んで貰ってもいいですか?
キヨ
ん、分かった


言われた通り洗濯カゴを運ぶ


1枚1枚は軽くても、部員全員分のビブスが入っているのでかさばるし少し重い




これをひとりで洗濯して乾燥してくれているのかと思うとありがたさが込み上げてくる


いや、これだけじゃない


グラウンドの片付けとか、部室の掃除とか、物品の用意とか、俺たちが練習してる間に彼女は裏で忙しなく働いている



それなのに部員それぞれのこともちゃんと見てて……





すげぇ

素直にそう思う

キヨ
あのさ、さっきのミーティングなに話してた?
ちょっと聞いてなかった
あなたの下の名前
今度の練習試合をやる学校、下駄箱の数が足りないから各自靴袋持参って言ってましたね
キヨ
ありがと


運んでいた物を置き、またグラウンドに戻って今度はボールの入ったカゴやカラーコーンを倉庫へ戻す




普通の女子ならこういう時勝手にキャピキャピして話しかけて来るんだけど、あなたの下の名前はそうはいかないんだよな



女子ってすげぇよ


俺全然話せねぇよ

あなたの下の名前
あっつ……


日に当たって赤くなった彼女の頬を汗が伝っていた



そういえば日に弱いと言ってた気がする


それなら文化系の部活に入ればよかっただろうに

キヨ
なぁ
あなたの下の名前
はい?
キヨ
なんでサッカー部にいるんだ?
あなたの下の名前
え、
キヨ
あ、いや
イメージ的に文化系っていうか、インドアな感じだから
あなたの下の名前
実は友達にお願いされて入ったんですよね
「2年にかっこいい先輩がいるから入りたいけど、サッカー部に入る友達いないから怖い」
って言われて
………思えばそれ、清川先輩のことなんですかね
キヨ
どうだろ、他のやつかもよ
あなたの下の名前
まぁ、なんにせよ入部してすぐに退部届出すのも気まずいですし、自分が辞めたらあの先輩だけが残って他の部員たちに迷惑かかると思うと………
辞められないですよね
キヨ
つまり………責任感?
あなたの下の名前
ですかね〜


俺きっかけで入部したものの、本人は俺に興味なさげ…



俺に近づいてくる女子に恋できたらこんな苦しいことなんてなかったのか?




いや、彼女がそうじゃないから好きになったのに


馬鹿な考えだ


















倉庫の鍵を閉め、サッカー部の準備室に戻ってくる


まだ仕事あるんだな

あなたの下の名前
先輩、帰っていいんですよ?
練習でずっと動いてたんですし
キヨ
全然大丈夫
それに、俺が手伝いたいだけだし
あなたの下の名前
ふーん?
ありがとうございます


「変なの」とでもいいたげな表情で彼女は作業を続ける

キヨ
次は洗濯?
あなたの下の名前
いえ、これは明日の練習の間に洗濯します
今日洗濯した分は乾燥機の中にあるんで、そっちを畳むんです


そう言われて乾燥機を開けてみた




中には乾いたビブスが詰まっていて、扉を開けた拍子に何枚か落ちそうになって慌てて受け止める

あなたの下の名前
1枚ずつ渡してもらっていいですか?
畳んでいくので
キヨ
りょーかい


俺は言われた通りビブスを1枚ずつ手渡し、彼女はそれを手馴れた動きで畳んで色ごとに重ねていく




綺麗に畳まれた洗濯物には、適当そうに見えて実は真面目な彼女の性格が現れていた



黙々と洗濯物を片付けていく彼女の横顔を見ていると、やっぱりかわいいなと思う

キヨ
あなたの名字さんって課題とか全部だすタイプ?
あなたの下の名前
いえ、全然です笑
キヨ
へぇ、意外
仕事とか完璧だし、先生にも気に入られてるからびっくりした
あなたの下の名前
なんていうか……99%やるんですよ
でもラスト1%になると急に何もしたくなくなるんですよね
だから終わらなくて
キヨ
あーー、ちょっとわかる


そんなことを話しているうちに作業はあっという間に終わってしまった




この時間が終わりに近づいているのが少し寂しい

キヨ
次これ?


いつもスポドリを入れているタンクを指差す

あなたの下の名前
はい、それを洗えば終わりです
キヨ
洗剤とスポンジはこれか
あなたの下の名前
ですです
キヨ
よーし……


俺はタンクを水道に置き、蛇口に手をかけて捻った

あなたの下の名前
あ、それ……
キヨ
え、


次の瞬間、水道から勢いよく水が流れて思いっきり周囲に飛び散った




俺は慌てて水を止めたが、すでに身体も髪もびしょびしょだ

あなたの下の名前
……想像以上に勢い強いですよって言おうと思ったんですけど、遅かったみたいですね
キヨ
マジでごめん
めっちゃ飛び散ったし、拭かねぇと……
あ、そこのビブス濡れた?!
あなたの下の名前
干せばいくらでも乾きますよ
とりあえずタオルどうぞ


俺が身体や頭を拭いている間にあなたの下の名前はサッと濡れてしまった数枚のビブスを干し、周りも拭いてくれた




作業の終わった彼女と目が合い、ついタオルで顔を隠してしまう

キヨ
ほんっとにごめん
あなたの下の名前
いえ、私も気を抜くと同じことしちゃう時あるので
キヨ
あんま、見ないで
今の俺めちゃくちゃダサい……
あなたの下の名前
…………


あーーー、どんくさいやつって思われたかな


余計なことしちまったな……





タオルで顔を覆い、ため息をついて項垂れる


すると彼女の声が聞こえた

あなたの下の名前
先輩
キヨ
………はい


おずおずと顔を上げる


彼女の目はまっすぐと俺を見ていて、ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうだ



その瞳は怒っている様子も、がっかりした様子もない




なにを言われるのか分からなくて緊張してしまう

あなたの下の名前
一目惚れしました、いま
キヨ
………へ?
あなたの下の名前
好きです


いま、なんて?






「「「好きです」」」??????






なんで今?


そもそもそれは一目惚れって言うのか?





え、急に無量空処しないでほしい

キヨ
えっと、付き合うってこと……?
あなたの下の名前
はい、いいですか?
キヨ
あ、うん


俺がぼけーっとしたまま返事をすると、彼女は嬉しそうに笑った

あなたの下の名前
よろしくお願いします、先輩







夕日の差し込む準備室





びしょ濡れの俺と、いたずらに微笑む彼女は付き合うことになった











俺の頭は終始追いついていなかった




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