【須崎真衣】
ソファに倒れ込む咲紀さん。ボフッと音を立ててそのまま動かなくなった。
ナキの声がするとすぐに咲紀さんは起き上がって元気に返事をした。
ナキに認められた気がして少し嬉しい。私がいるから大丈夫だなんて、前の職場ならありえなかったから。
ボーッとしてたのは疲れなんかじゃない。とーかさんの言葉が引っかかっていたから。
波瑠さんのこと、「好きとかじゃないんだよね?」って聞かれて、その時は波瑠さんのこと、後輩として好きだと思ってた。
波瑠さんは女性で、私も女で、波瑠さんは私の恩人で、だから大好きで。
でも選択肢にある好きの種類が増えた時、後輩としての好意という事に違和感を持った。likeじゃなくてloveかもしれない、なんて。
波瑠さんが好きってことは、一緒にいたいってことで、ということは……
ナキに促されるまま深呼吸をした。
ボソッと呟きながら休憩室に入ってくる。
ナキはそう言うけど、波瑠さんは男じゃないから当てにならないかもしれない。
そもそも、女の人に恋するのは間違ってるんだろうか。少数派だからと言って間違えてると決めつけるのもおかしな話だけど、やっぱり女である私の恋話を聞けば相手を男だと思うのも自然なことで。
咲紀さんは私のことを何だと思ってるんだろう。医者や弁護士と会う機会なんてないのは知ってるはずなのに。
思わず笑ってしまう。
それにしても。波瑠さんが戻ってこない。
休憩室を出て、ホールに探しに行く。ホールに出てすぐ、テーブルに突っ伏す波瑠さんを見つけた。
手間かけさせたわね、なんて言いながらふらふらと立ち上がる。心なしか顔が少し青ざめている気がする。
何も動かない静かなホールで、波瑠さんだけが揺れて。
私の目の前で倒れた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。