それが“偶然”だと、
最初は思った。
影の動き。
式神の気配。
あなたの足元で、
黒がわずかに揺れた。
悟が、ぴたりと動きを止める。
あなたは、迷った。
天与呪縛――
“狼に変わる”存在。
それだけだと、
皆に思われている。
でも。
あなたは息を整え、
影に手を伸ばした。
地面に、影が落ちる。
そこから現れたのは、
見慣れたはずの――
悟が、目を見開く。
しかも。
影の奥から、
“それ”の気配がした瞬間。
悟の表情が、完全に変わった。
おぞましい気配が、
あなたの影からはい出てくる。
そのものは……。
低く、はっきり
影は、暴れない。
牙を剥かない。
調伏済み――
完全体。
悟は、数秒、言葉を失った。
摩虎羅があなたに花の冠を手渡す。
摩虎羅が手をグッドにして、似合うと褒めている。
それを見ている悟は、驚きを隠せないが
静かに笑う。
悟の目を1度見て、
困るよう目を伏せる。
悟は一歩近づき、
あなたの頭に手を置いた。
冗談めかして言うが、
目は本気。
悟は、少しだけ真面目になる。
そうして――
あなたは、稽古場にいた。
少し離れた場所で、
黙って見ている。
……見ていて、思った。
悟の動きは容赦がない。
恵は倒され、立ち、また倒される。
半殺し。
あなたの胸が、ざわついた。
稽古が一段落した隙を見て、
あなたは伏黒に声をかけた。
視線を落とす。
あなたは、
その言葉に息を呑んだ。
信念は強い、術式もある、
考える力もあるけれど、
まだ“子ども”だ。
体も、心も。
あなたは、しゃがみ込んで目線を合わせた。
伏黒が、驚く。
伏黒は、しばらく黙っていたが――
小さく、頷いた。
その背後で。
悟は、
二人を見て何も言わなかった。
ただ、少しだけ――
安心したように笑った。
影は、静かに足元に戻る。
――この出会いが、
伏黒恵の“支え”になることを。
悟だけが、
もう知っていた。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。