第4話

あの日の後悔。2
66
2019/10/19 11:48
痛い……
けど暖かくてふわふわする感覚。
何かを思い出したいのに、その何かが思い出せない…。何があったんだっけ。



(っ…あれは……俺と充が小さい時の…)



蘇ってきた記憶は、充と楽しげに遊んでいる姿。
夢を見ているのだろうか。




不思議な感覚の中で、新汰は充との出会いを思いだした。


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出会い。





–ねぇねぇ、一人でいるの寂しくない?–


遅れて幼稚園に入園した俺は、その場にあまり馴染めずにいた。何故だか周りがとても気になってしまったからだ。その時の性格を簡単に言えば、人見知りで引っ込み思案。
ここで泣いてしまったら先生が困ってしまうとか、この子に本当のこと言ったら傷ついてしまうとか、小さいながら色々考えていた。


そんな時に話しかけてくれたのが充。
…ねぇねぇ、一人でいるのさみしくない?
一人で何してるの…?
新汰
えと……砂遊びしたり…
続けて質問してくる充に、最初は驚いたが、こんなに話しかけてくる人がいなかったから嬉しかった。
……一人で砂遊びしても楽しくないじゃん…いっしょに遊ぼうよっ
新汰
わっ…!
ほら、早くこっち…
ねぇ、なんて名前?
新汰
まこも あらた……きみは?
みつる!あもう みつるって言うんだ
この出会いから俺と充、二人の小さな世界は動き始めた。
二人で完結できそうなくらいの思い出を作ったし、悲しい時や辛い時もずっと一緒にいるのが当たり前。きっと、充も同じこと考えてるんだろうな…とか一人で思ったりもした。


俺の性格が変わったのは、いつからだろう。


充のことを知るようになった、年長さんになった頃だっただろうか。


充の性格は、俺に似ていた。人見知りではなかったが、不安がり屋で心配性。俺よりも周りをよく見ていた。
その姿を見ていたからか、俺は"強くなりたい"と思い始めた。充や弟を支えられるような強い人になりたい、強くなったら不安なんてなくなる、そう思ったのだ。
でも強くなる方法なんてわからなくて、とにかく自分から頑張って園の子に話しかけた。
それからだ。少しずつ、ほんの少しずつだけど友達が集まってきてくれた。そして

"自分から話しかける大切さ"を知れた。

母さんにも性格が明るくなったね!と笑顔で言われ、とても嬉しかった。
母さんはいつでも明るく、笑顔を絶やさない人だったから、積極的な所は母さんの性格に似たのだろう。やると決めたことは必ずやり通す所は父さんに似たんだな。
父さんと母さんには感謝しかない。
あらた、さいきん笑顔が増えたね!
新汰
ほんとう!?俺、つよくなりたくて頑張ったんだ!!そしたらしぜんに笑えるようになったの!
あらたはいつも俺のヒーローだよ!悲しいときはたすけてくれるでしょ?
新汰
それならみつるもヒーローだよ!俺が悲しいときはそばにいてくれる!
えへへ、俺たちは仲良しヒーローだね!
新汰
うん!仲良しヒーローだ!だからみつるも困ったときはいつでもたよってね?
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懐かしいなぁ。仲良しヒーロー。
それから、小学生の時もずっと一緒で。
夢も語ったな…












あ…











夢…。充との夢。
思い…出した。俺は…事故にあったんだ。頭を強く打って…。
じゃあ今のは走馬灯ってやつなのか…??


あぁ、また思い出した。つい最近の出来事を。


–事故に遭う直前のことを–

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悲しんでいる親友が目の前にいる時、あなたならどうしますか。

助ける?それとも気づかないふりする?そばにいてあげる?

どれが正しいかなんてわからないけど、皆の意見を聞かせてほしい。
もし、あの時充とちゃんと向き合っていたら、俺はこんなに後悔を残したまま死を迎えることはなかったのだろうか。
充と、あの"誕生日"を楽しく過ごせたように、8月の終わりから笑顔で過ごせたのだろうか…。

…もう一度聞きます。悲しんでいる親友が目の前にいる時、あなたならどうしますか?

助ける?それとも気づかないふりをする?そばにいてあげる?










俺は…










助けたし、気づかないふりもした。ずっとそばにいて充を傷つけた最低な親友だ。



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8月の終わりに充と喧嘩をした。
勉強についての喧嘩だった。
充は勉強を一生懸命に頑張っていて、動物と関わる仕事をしたいと言っていた。昔話した夢を追い続けていたのだ。
俺も充の頑張る姿を見ていたから頑張れた。


…頑張ったからこそ、成績の差についての喧嘩をしてしまったのだ。


それから俺は勉強のことについて充には話さないようにした。充が辛くなるから。
…それでも、充は不安げな表情をしていた。


充が目を擦りながら学校に来た日もあった。目が赤くなっていて、泣いたんだなってすぐに分かった、分かったのに…助けなかった。助けられなかった。また充を傷つけてしまうと考えると、行動できなかったのだ。
…見て見ぬ振りをした罪悪感が募るばかり。


数週間が過ぎたある日、充から俺の誕生日について話をしてきた。
新汰、今週誕生日だろ?俺の家で色々用意して祝いたいから、俺の家に来てくれないか?
新汰
っ!ありがとう!もちろん、お邪魔させてもらうね
喧嘩をしてから少し話しづらく、何を話題に会話をすればいいか迷ってしまい無言で帰ることが多かったから、久しぶりの何気ない会話が嬉しかった。
誕生日は毎年家族のように祝ってくれる。
じゃあ28日に、凛とも用意をするから楽しみに待ってろよ?
新汰
2人で用意してくれるんだ!嬉しいなぁ、誕生日が楽しみだ
りんは俺の弟だ。
優しくて、仲間思いで俺の自慢の弟。
凛も充と仲が良く、充のことも兄のように慕っていた。


今年も2人が誕生日を一緒に祝ってくれる。幸せな誕生日。


誕生日の日、ちゃんと謝ろう。苦しんでいたことに気づいていたのに、気づかなかったふりをしていたことを。俺は一度決めたら必ずやり通すんだ、俺ならできる。
そう決めた日は、少し心が軽くなった気がした。



「誕生日が楽しみだ…」









そして









9月28日はあっという間に来る。

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