──『私の脚は、いつ走れなくなってもおかしくない状態だった』。
予想外のことに思わずガタッと椅子から立ち上がる。
タキオンの脚は他のウマ娘を寄せ付けないほどに圧倒的な走りを魅せてくれる。
しかし、唯一欠点があった。
それは、脆さも兼ね備えていることだ。
彼女が幼い頃からウマ娘の肉体の虜であることはすでに知っている。そして、ウマ娘の限界の果てにたどり着くためこの学園に来た、以前そう話していた。
こんなに素晴らしい脚を持っていながら、自らレースに出ようとしなかったり、彼女が気まぐれだったのはおそらくこれが原因だろう。
そしてタキオンはこう続ける。
彼女いわく、簡単に言えばプランAは彼女自身でウマ娘の限界を目指すこと。一方プランBは他のウマ娘を限界に到達させる実験。
しかし、前者は脚の脆さゆえに少し諦めかけていたという。
そう言い、タキオンは少し苦笑する。
その瞬間、私は気づいた。
彼女はわがままではない。
自分自身と戦っていたのだ、と。
「勿論」。
そう言おうとしたが、返事を待たずしてタキオンはこう続ける。
その言葉を聞いた瞬間、目頭が熱くなり、喉が震えだした。
突如として始まった実験にあたふたする私を見て、
いつの間にか雨もあがり、窓から夕陽が射している。
照らされた彼女の目は、いつも以上に無邪気に輝いていた。
──今後はトレーニングをサボったりすることはもうないだろう。
そしてタキオンが脈拍を取り終わったあと、次の目標を決めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!