1943年秋。クルスクの草原を血に染めて南下を続けたソ連軍主力部隊の前方に、ヨーロッパ第四の大河、ドニエプル川がその姿を現した。
対岸には、ドイツ軍が絶対の自信を誇る防衛線「東方壁」が築かれ、最新鋭のパンター中戦車がその牙を研いでいる。
「……あら。あんなに広い川を渡るなんて、野蛮というよりは、もはや無謀の域ですわね。……メルルさん。対岸の砲座に祝砲を……爆撃機隊は爆撃地点へ…よろしいですわね?」
参謀局長ハンナが、冷たくなった紅茶のカップを置き、指揮棒でドニエプル川の要衝をコツンと叩いた。
「……あの、えっと……発射!」
メルルのカチューシャ砲が、大河を越えて敵の防衛線を耕す。だが、その向こう側からはドイツ軍の88ミリ砲が、倍の音量で不協和音を返してきた。
「ヒロちゃん! ボク達、あの川を越えなきゃ、黒海には行けないんだよね!?」
T-34のハッチから身を出す少尉エマ。その視線の先には、勢いがあるドニエプル川。
「……ええ。エマ。不協和音を断ち切るには、この大河を『沈黙』させる必要があります。……アリサ、渡河準備を!」
「おうよ! 根性見せろやテメェらぁ!! 泳いででもあの対岸に、あたいらの旗をぶち立ててやるよ!!」
歩兵大隊長アリサの咆哮と共に、小型の輸送船や小舟が、川の中へと繰り出される。
「……ワタシの視界に、逃げ場はない。……対岸で狙い澄ましているドイツの観測員は、あと3人。……ワタシが、この川を静寂に変える」
ソ連邦英雄の狙撃手ナノカが、1.2km先の対岸に向けて、3発の「調律」を放った。
「ヒロ! 黒海のレンドリース艦隊から通信だ! 『ドニエプル河口まであとわずか、支援を待つ!』と言っているぞ! !」
アンアンとノアが、激しいノイズをねじ伏せて、海の相棒たちの声を司令部に届けた。
最高元帥ヒロは、赤い万年筆で作戦図に巨大な「矢印」を書き込んだ。
「……間違っていない。ドニエプルを越え、黒海へ。……わたしたちの独立は、この川の向こう側にある。」
対岸の傾斜地から、一斉に鋭い砲声が響き渡った。
ティーガーIを上回る貫通力を誇る長砲身75ミリ砲。ドイツ軍の新世代主力、パンター戦車D型の洗礼だ。
「……あら。あちらの戦車、避弾経始(ひだんけいし)を追求した優雅なデザインですわね。……ですが、わたくしの計算尺が導き出す『死の座標』からは逃げられませんわ」
参謀局長ハンナが、紅茶のカップを置かずに指揮棒を走らせる。
パンターは機敏に陣地転換を行い、反撃の88ミリ砲火を司令部近辺に叩き込んでくる。
「ヒロ! 敵の防衛線が厚すぎる! 吾輩の傍受した通信によれば、対岸には少なくとも3個戦車大隊が待ち構えているぞ! 」
情報傍受班アンアンの悲鳴。
「ねーヒロちゃん、レンドリースの駆逐艦から『あと30分で河口を封鎖する』って連絡きたよ! えいっ♪って道を空けてあげなきゃ!」
通信班ノアが、泥にまみれた地図を差し出す。
最高元帥のヒロが言う。
「ゴクチョー。兵力図は?」
「はぁ…面倒ですねぇ…はい、これですよ…もう面倒事に巻き込まないで欲しいんですけど…」
「バカなことを言うな!(シュワちゃん)アリサ、ナノカ、よろしく頼む。」
「おうよ! 根性見せろやテメェらぁ!! 筏だろうが泳ぎだろうが、対岸のパンターの首根っこ掴みに行くぞ!!」
歩兵大隊長アリサが、自ら筏に飛び乗り、銃弾の雨の中を漕ぎ出す。
「……ワタシの視界に、逃げ場はない。……パンターの覗き窓を、あと2つ。……ワタシが、その瞳を閉ざしてあげる」
狙撃手ナノカのモシンナガンが1,000メートル先のパンター車長を正確に射抜いた。
「……ヒロちゃん。ボク、行くよ。……不協和音を消して、海(黒海)へ辿り着くために」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!