第10話

第九話
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2026/03/04 13:22 更新
……刷り上がったよー…これが、うちらの『正しさ』の証明かな?」
黒海沿岸、アメリカから届いたばかりの最新式印刷機が、凄まじい速度で紙を吐き出していく。
プラウダ編集長・ココが掲げたその「号外」には、ティーガー1残骸の上で、泥にまみれながらも手を繋ぐヒロとエマの姿が、鮮烈に焼き付けられていた。
『――全てを越えて。少女たちが導く、新しき独立の光。』
その見出しが、レンドリースの無線網を通じて、全戦線のソ連兵、そしてモスクワのNKVD本部へと電撃的に伝わっていく。
「ココ! 吾輩の名前が載っていないぞ! 吾輩の功績、傍受の天才と書くべきではないのか!?」
アンアンが新聞を奪い合おうとするが、ノアがその横で「えいっ♪」と自分とヒロの似顔絵を余白に書き足している。
「……あら。野蛮な新聞ですこと。……ですが、わたくしの計算した砲撃戦果が、こうして数字(活字)になるのは、少しだけ誇らしいですわね」
参謀局長ハンナが、刷りたての新聞を扇子代わりに仰ぎながら、優雅に微笑んだ。
だが、司令部の中心に立つヒロは、その新聞をじっと見つめ、赤い万年筆を固く握りしめた。
「……ココ。なんだこのふざけた記事は!祖国に宣戦布告をしたと言っても差し支えないぞ!ドイツ軍に対しても、攻勢の隙を作ることになる!」
「……あはは。そうだよ、ヒロ。真実(プラウダ)を隠すには、この世界は少し、不協和音が響きすぎているからね」
その時、NKVD長官ユキが、冷徹な足音と共に現れた。
その手には、二重スパイとしての通信ではなく、モスクワからの「直接命令」が記された真っ黒な封筒。
「……ヒロ。ココの記事が、ついに『害虫』の逆鱗に触れていたんですよ。……モスクワから、全員の召還命令。……拒絶すれば、わたしたちは今この瞬間から、国家の敵となる」
黒海の波音が、急激に冷たさを増した。
1942年。独立への物語は、ついに「内なる敵」との全面戦争へと突入する。

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