そう言って、帰る支度をする。
…先生には、本当にお世話になったなぁ…
こうして、発表会のトリをやらせてもらえる。
きっとそこは私の舞台。
楽しみだ。
と言っても、審査員の一言を思い出す。
この曲については、もう酷いくらい色んなことを言われた。
そう言って審査用紙を渡された。
1人目。
次はこんな風に言われた。
2人目。
全国への切符。
そんな言葉が刺さる。
3人目。
もっと頑張ろう、ね…
頑張れてなかったみたいじゃない。
4人目。
こうして、苦い関東大会に終止線を打った。
これでいいんだ。
きっと大丈夫。
猛練習しなくていい。
苦しくなくなる。
目から生ぬるい水滴が零れる。
手のひらに堕ちたそれは、なんなのかよくわからない。
なんでだよっ…
お母さんはきっと、私の欲しい言葉をくれない。
それはそうか。
ちゃんと努力したら、結果がついてくるもんね。
でも毎日…頑張ってたんじゃなかったのかな?
私の「努力」は他の人から見た「普通」なのかもしれない。
じゃあ、私はどうしたらいいの?
努力しても無駄。
才能が無いから駄目。
そんな世界を生きてたの?
顔が良ければ何でもいい。
声が良かったらなおのこといい。
そんなものだったの?
ピアノなんて、私が弾いて良かったの?
弾いちゃ駄目だったんじゃないの。
また何処かで間違えたんじゃないの?
なんで?
どうして?
私に指があるのは何故?
私の声が低いのはなんで?
顔が悪いからっていじめられてさぁ。
こんな場所で生きないといけなかったの?
分からない。
存在ごと消えたい。
どうでもいい羞恥心に襲われる。
『なんでピアノなんて弾いてるの?』
『下手くそが弾いても意味ないでしょ?』
『貴方が上手いなーって思っただけよ。悪い?』
分からない。
私って、なんだったの?
そこからしばらく、私は自分が何か分からなくなった。
でも、今はピアノが弾ける。
これは、私のための夜想曲。
この音は、私にしか出せない、私自身の音。
間違っていても、そう思いたかった。
何が正しいのか分からないじゃない。
何が間違っているのか、分からないじゃない。
明日は私が主人公なの。
私自身を魅せる日なの。
どーんと、楽しまなくちゃね。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!