キラキラと眩しいライトが私を照らす。
見ている人全員がこちらを見る。
どくどくと血の流れる心臓の音がよく聞こえる。
ここが私の舞台。
私の居場所。
しっかりと心に焼き付けて帰ってもらわなくちゃね。
着慣れないドレスに腕を通し、
ヒールの入った靴を履く。
もう一度楽譜を確認して、家を出た。
お母さんに久しぶりに褒められた。
嬉しい。
普通に今泣けって言われたら全然泣ける。
やばい。
…そんなことを考えていたら会場に着いた。
あー、長い。
待ち時間というものはなんて憂鬱なんだろう。
私の出番は53番。
今弾いている人は35番。
2時間は待ったよね…?
あれ…1時間しかたってない。
…頑張って待とう。
しまった。
うっかり寝てしまった…
右腕で抱えた楽譜をそっと抱きしめ、舞台裏に向かう。
刹那、とんでもない拍手が会場に巻き起こる。
止まない拍手の向こうには、幼稚園の時の友達…
佐田勇斗がいた。
ピアノの先生が彼の話をよくするから、なんとなく知っている。
深くお辞儀をする彼の目は輝いていて、とても楽しそうだった。
くそ、このショパン弾きが。
去年も一昨年もショパン弾きやがって。
私だってショパン弾きたかったのに…
こんなに拍手もらいやがって…
ふざけんなぁーー!!!
見てろよ、私のベートーヴェン。
お前がショパンならこっちはベートーヴェンだわ。
ちゃんと見ててよね、ショパンばっかり弾いてるその目にしっかり焼き付けるんだから。
そんなことを思っていると、舞台裏に降りてきた彼が目の前を通った。
はぁーーー!!!
通りすがりにウインクしただとーーー!
ふざけてんのかこいつは。
でも、言いたいことは伝わったっぽいし…
差、つけてやるよ。
努力の差。
ざまぁみろって絶対言ってやるからな。
そんなクソ野郎の話は置いといて、私は楽譜を開く。
「ここは強く!」「下手くそ!」「もっと大事に!」「感情を込める!」
楽譜が見えなくなるほど書いてあるポイントに、クスッと笑ってしまった。
私だって、頑張ったんだよね。
目からポロポロと涙が零れ落ちる。
今はその理由がわからない。
前に座る女の子たちがハンカチを貸してくれた。
嬉しいんだろう。
ここでこうやってピアノを弾けることが。
頑張ってきた努力が認められるかもしれないってことが。
よし。
頑張らないとだね。
口角を上げ、にっこりと笑う。
ここは私の舞台
〜53番 ベートーヴェン「テンペスト」より第1楽章〜
そう流れた放送が私自身の緊張を引き出してきた。
舞台の上から見る客席はとても小さく見えて、少し怖かった。
でも、
私なら大丈夫。
どこからかそう思うことが出来た。
舞台の中心まで来て、ゆっくりとお辞儀をする。
最後ということもあり、より大きくなった拍手が私の心臓を潰そうとしてくる。
でも、そんな空気も少し気持ちよく感じた。
最初のアルペジオを奏でる。
ピアノの先生言ってたなぁ。
先生。私、ちゃんと奏でてるよ
お母さん。私、今とっても楽しいの。
ピアノは苦しい時のほうが多いけど、これだからやめられないの。
今の私を見れば分かるでしょ?
楽しいから弾いてるの。
好きなことを続けるのに理由なんて必要なの?
今だったらどんな正論も言い返せる気がした。
気がつけば、曲は終盤に差し掛かり、最期の一音までをしっかりと響かせた。
ホールの中いっぱいに私の音が響く。
ここが私の居場所。
ステージの真ん中まで来て、深くお辞儀をする。
あふれんばかりの拍手が起こる。
それは、舞台裏まで来ても鳴り止まなかった。
さぁ、彼には私がどう見えたのかしら。
ショパン弾きさん…?
舞台裏にいる彼のところへ行く。
すると…
真剣な表情で彼は言った。
歩き出す彼の後ろについていく。
ついたところは舞台裏のすぐそばにある、誰も来ないような廊下だった。
脳味噌が暴れ出す。
今私は彼にいわゆる壁ドンをされている。
彼氏いない歴=ほぼ年齢の私にはとてもびっくりしてしまった。
あわあわと驚く私を見て、ようやく彼は話出した。
私の脳味噌はすでに限界をむかえており、
どろどろに溶けたような思考回路か頭の中を巡っていた。
身長差のせいで上を見ないと話せない。
…160はあるだろうか…
展開急すぎない?
限界だ。
二人とも上級。
でも、私にはなくて、彼には無いものがあった。
断ってしまった。
ごめんね、ショパン弾きさん。
それ以外でも私にはショパン弾きさんを断った理由がある。
それは、どうしても、ねじ曲げれなかった。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。