それはあと少しで夏の匂いがしそうな6月の出来事。
嫌になるくらいの湿気と、動き回る心臓をなだめて生きていた。
好きな人。
それは私にとって特別でこの上ない存在。
その人に自分の思いを伝えるのはとても怖かった。
嫌われてしまうかもしれない。
話せなくなるかもしれない。
そう思っただけで足がすくむ。
乱れた呼吸を前髪と一緒に整え、大丈夫、大丈夫、と言い聞かせる。
彼のもとに足を運ぶ。
愛想笑い、出来てるかな…?
教室の中に誰もいないことを確認し、ゆっくりと口を開く。
怖い。
今だってそんなことを考えている。
でも、
無反応こわっ
なんか言ってよ……
出来る限り小声で聞く。
震える唇から息が漏れる。
怖い怖い怖い。
いつでも逃げたくなってしまう。
うわー、恥ずかしい。
こんな告白の仕方ありかよ。
絶対ない絶対ない。
自分自身の気持ち悪さに嫌気が差してきた。
急ぎ足で部室に向かう。
楽器のケースに手をかけ、リードを舐める。
…これ相変わらず美味しくないんだよな…
舐めたリードを楽器に取り付け、音楽室に向かう。
…まだ誰もいない。
思いっきり爆音でアルトサックスを吹く。
前までは部員の少なさによりバリトンサックスだったのだが、アルトになった。
汚い爆音とともに涙が溢れ出す。
この気持ちは閉まっておいたほうが良かったのかもしれない。
苦しい。
私じゃだめ。
もっとかわいくなって、
もっと勉強して、
もっといい子になって、
もっと色んなことして、
もっと
もっと
もっと
もっと
もっと
もっと
もっと
もっと
がんばらないといけない。
そう思った瞬間、何かが吹っ切れてしまった。
手元では赤くなったカッターがある。
わたしは?
何したの?
え?
傷口を絆創膏で止める。
何故かお腹切ってしまったようで、ドバドバと血がでている。
なんとかティッシュで止血して耐える。
痛みはない。
もう嫌だな。
誰かを好きなるとか、愛されたいとか。
私には要らないのかもしれない。
でも、あると幸せなのかもしれない。
もう、よくわからない。
わからないことだらけ。
数学の答えとは違って現実の答えは一つじゃない。
どれが正しいのかもわからない。
怖い。
私には
何もないのかな?














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。